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第174回 タイ料理の思い出 直井謙二

第174回 タイ料理の思い出 直井謙二

第174回 タイ料理の思い出

貿易の自由化によって、タイの食材が日本でも手軽に手に入るようになり、本場に負けない味を日本にいながら楽しめるようになった。東京だけでも300件近いタイ料理店があり、若者を中心に人気の味になっている。しかし辛さだけは日本人の趣向に合わせ、かなり手心が加えられている。

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年ほど前、タイの東北部で味わった、というより苦しんだ本場のタイ料理は忘れる事ができない。
緑色の小さなトウガラシが豊富に入っているトム・ヤム・クンを飲んだ時の事だ。飲んだとたんに舌がしびれはじめた。慌てて水を飲むと口の中はさらしびれて辛くなり、頭から汗が噴き出した。しばらくすると食道が痛くなり、痛みは胃に到達した。その後、腸が痛くなり、最後はお尻に来てこの騒ぎが終わった。

身をもって人間の消化器官の配置を実感し、小学校の理科室でこわごわ眺めた人体模型が正しかったことをトム・ヤム・クンを飲んだ事により再確認できた。

さて、タイ人は総じて1回の食事で食べる量が少ない。首都バンコクは台所のないアパートが多い。昔から女性も働く習慣があるため食事を家で作るよりも屋台で食べる。しかも屋台で食べる方が自炊より安いのだ。暑い昼間より涼しい夜の方が活動しやすいことから屋台は早朝から深夜まで開いている。

第176回 直井.jpg

いつでも食事が出来る環境が整っているため、食事の回数が増え、1回に食べる量が少ないのだと思われる。
赴任先のバンコクでは200軒以上の日本食堂があった。普段は3食とも日本食だったが、時折タイ人スタッフとの親睦を兼ねて屋台で昼食を食べた。タイ東北部で味わった辛い料理は今でもトラウマになっているが、実は日本では味わえないタイ料理は意外とたくさんある。そして日本人の舌に合うような余り辛くない料理も少なくない。

屋台では日本人の味覚を知り尽くしている現地タイ人女性助手に注文は任せ、出てきたものを食べるのがもっとも賢い方法だ。海産物や野菜をオイスター・ソースで煮込んだ料理が大きめのどんぶりが出てきた。「ボスお先にどうぞ」とタイ人女性助手に勧められるまま、辛くもなく実にうまいこの料理をあっという間に半分以上食べてしまった。ところが一緒に食事に来た3人のタイ人スタッフの注文がなかなか来ない。なぜ注文が遅れているのかとあたりを見回した。同じ料理を注文したタイ人だけのグループを見てはっとした。

大きめのどんぶりに盛られた料理を34人で分けて食べている。ひとりで半分食べてしまった料理はなんと4人分だったのだ。1回に食べる食事の量が少ない豊穣の国のタイ人と戦争直後の食糧難の中で育ち、食べられるときは全て食べてしまう習慣が身についた筆者の差がもろに出てしまった。

恥ずかしさで顔を赤くしながら追加注文をした。裕福な家庭育ち名門大学を卒業した美人のタイ人女性助手も恥ずかしかったに違いない。


写真1:大通りに面したバンコクの屋台

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