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〔51〕台湾鉄道の荷物札にあった反共スローガン 小牟田哲彦(作家)

〔51〕台湾鉄道の荷物札にあった反共スローガン 小牟田哲彦(作家)

〔51〕台湾鉄道の荷物札にあった反共スローガン

台湾の鉄道では、日本でいう特急や急行列車に「自強」「莒光」という種別名が付いていて、駅の発着案内表示にその名が頻出する。「自強」とは、中華民国政府が1971年に国連を脱退したときのスローガン「荘敬自強 處變不驚」(礼儀正しく自分自身を強め、状況の変化に驚くなかれ)が出典になっている。「莒光」とは、かつて斉の国が莒の地に追い詰められた後に失地を回復した故事にならって、台湾が大陸反攻を目指すことを意味する標語「毋忘在莒」(莒に在るを忘れるなかれ)に由来している。こんなに政治色が強い列車名が採用されたのは、世界最長と言われた戒厳令が台湾に敷かれていた1970年代の命名だったからだろう。

紀行作家の宮脇俊三が蔣経国総統時代の1980年に台湾の鉄道旅行の様子を描いた『台湾鉄路千公里』には、現地で入手した「旅客列車時刻表」の巻末に、「空襲警報時旅客須知」という注意書きが掲載されていたと書かれている。宮脇はこの注意書きを見て、「戦争末期の時刻表の裏表紙にあった『旅行防空心得』を思い出した」という。

旅客が短時間のうちに使用した後に処分される旅行上の消耗品の類にも、そうした物々しい雰囲気が感じられた。下の画像は、戒厳令下の台湾鉄道で使用されていた手荷物用の荷札である。左の荷札には「堅持反共立場」「堅守民主陣容」、右の荷札には「同心協力、討毛反共!」「打囘大陸、解救同胞!」との勇ましいスローガンが刷られている。「討毛」とは「毛沢東を討つ」という意味だから、この荷札は毛沢東が健在だった1970年代前半より前のものと思われる。

「堅守民主陣容」「討毛反共」「打囘大陸」などの文字が並ぶ台湾鉄路の荷札

国是とされる標語や時の政権が掲げる政治スローガンが、公共交通機関である鉄道の列車名や設備の名称などに用いられるのは、政権交代が(事実上)ないか、もしくは政権が交代しても変わらないほど国民に広く共有されている内容であることが条件となる。荷札に政治スローガンを刷り込んでおいて、政権が交代したら荷札ごと使えなくなってしまうのでは、大量生産できず非経済的でもあるからだ。だから、こうした荷札が鉄道の現場で使用されていたということは、この内容が覆るほどの政権交代がその当時の台湾で想定されていなかったことを示していることにもなる。

そう考えると、「自強」や「莒光」の列車名は、民主化され、選挙による政権交代が起こるようになった現代の台湾にも引き継がれている稀少な例のように思える。「討毛反共」よりは穏健な表現だったからかもしれないが、政権が交代してもその標語を長く社会に定着させるという目的は達成されている、とも言えるだろう。


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