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「中国は敵にあらず」、米国の識者百人がトランプ政権の中国政策批判(上) 戸張東夫

「中国は敵にあらず」、米国の識者百人がトランプ政権の中国政策批判(上) 戸張東夫

<「中国は敵にあらず」、米国の識者百人がトランプ政権の中国政策批判>

トランプ政権の中国との全面対決、敵視政策がたしかに際立っている。政権内部でトランプ大統領と異なる中国政策を語る声は聞こえてこない。一年以上続いている制裁・報復関税の応酬や中国の為替操作国指定などからもこの中国との全面対決の姿勢をうかがうことができる。

<トランプ政権の中国敵視政策を宣言したペンス演説>

このようなトランプ政権の中国敵視政策は昨年(2018年)10月のペンス副大統領の中国批判演説に集約されている。ペンス氏はこの演説で中国による中間選挙への干渉から南シナ海の軍事拠点化など思いつく限りの中国の不法行為をならべたてて批判した。当時は中国に面と向かってこのような歯に衣着せぬ無遠慮な批判・非難をぶつけることが出来るのは米国以外にはあるまいなどと内心快哉を叫んだものだが、同時にこのような中国敵視、反中国のスタンスでは中国も反発するであろうし、目的がどのようなものであれ逆効果になるに違いないという危惧を抱かざるを得なかった。いつか、どこかで誰かがこの中国政策を修正しないと米中戦争といった最悪の事態にもなりかねない。そんな恐怖感すら覚えたくらいである。

中国との全面対決がトランプ大統領およびその周辺のごく一部の考え方であれば政策転換はあるいは容易かも知れない。ところがそうではないようなのである。「(ペンス副大統領)演説で指摘されたことはどれも、トランプ、ペンス両氏特有のアイデアではなく、ワシントンで合意された内容を述べたと言える。両氏が去ってもこの政策は継続する。」米戦略家エドワード・ルトワック氏はこう証言している(『読売新聞』2018年10月13日)。また米ランド研究所のジェフリー・ホーナン氏も「『貿易戦争』は米中覇権争いの一側面に過ぎない。ワシントンで反中国の声は党派を超えて高まっており、米中は今後も折り合うことはないだろう。現在の対立は今後も続くだけでなく、さらに激化する恐れもある」と述べている。(『読売新聞』2019年7月2日)

<米中対立が日韓関係にも影を落とす?>

それにしてもトランプ米政権は中国をどうしようというのであろう。米国に次ぐ超大国となった中国が米国に追いつき追いこすことのないよう先制攻撃を仕掛けているのであろうか。それとも中国を米国中心の国際秩序から排除しようとでも考えているのだろうか。トランプ氏はツイッターで「我々に中国は必要ない」「ない方がましだろう」と語ったという。これがどこか別の国の首脳の発言であったらジョークとして笑い飛ばすことも出来たであろう。だがトランプ氏の発言となれば“本音”と受け取られても弁解できまい。米中対立といっても世界最大の強国と第二の超大国の対立である。地球規模の地殻変動といっても言い過ぎではあるまい。影響は政治、経済、金融などあらゆる分野に及び、影響する範囲も地球規模である。

たとえば日韓対立にしても米中対立と決して無縁ではないという。第二次大戦中の元徴用工への賠償問題に端を発し、最近の韓国による日本との秘密情報保護協定(GSOMIA)破棄に至るこじれにこじれた日韓対立である。この論者によると米中対立と日韓対立は次のようにどこか遠くでつながっているのだという。米中対立のなかで中国の台頭と米国のアジアからの撤退の流れが生まれた。その結果米国の力が相対的に低下し、米国中心の同盟関係がほころび始めた。これが日韓対立の大きな背景になっているのだという。この論者が日韓関係の将来を次のように見ていることをついでに紹介しておきたい。「現在の日韓対立を経て、両国はいっそう同盟関係より自国の都合を優先するようになるだろう。韓国は北朝鮮と個別交渉を始め、西側との同盟関係を犠牲にしても、中国の勢力圏と一体化する可能性が高い。」(『ニューズウィーク』2019年9月3日、10頁)。米中対立は決して他人事ではないのである。

<中国敵視政策批判の公開書簡発表される>

世界中がこのように米中対立に一喜一憂し、その行方を不安を抱きながら見守っていた今年(2019年)7月トランプ政権の中国政策、とくに中国を敵視し、中国と全面対決する政策に焦点を当てて批判するトランプ大統領と米国会議員あての公開書簡が発表された。7月3日の米有力紙『ワシントンポスト』に「中国は敵にあらず」という見出しをつけて掲載されたのである。書簡をまとめたのはテーラー・フラベル(Taylor Fravel、マサチューセッツ工科大学教授)、ステープルトン・ロイ(J Stapletpn Roy、元中国駐在米大使)、マイケル・D・スウェイン(Michael D. Swaine、カーネギー国際平和財団上席研究員)、スーザン・ソーントン(Susan A . Thornton、元国務次官補代行)、エズラ・ボーゲル(Ezura Vogel,ハーバード大学名誉教授)の五氏。その他九十五人が署名して発表したとこの書簡は述べている。

書簡がもっとも強調しているのは、現政権の中国敵視政策は根本的に間違っている、中国敵視を止めるべきであるという主張である。これが書簡の基調として全体を貫いている。『ワシントンポスト』の見出し「中国は敵にあらず」は書簡の意図を的確に表現しているというべきであろう。内容を一言で要約すると「トランプ政権は中国の意図、現状、考え方を読み間違え、中国を危険な敵とみなしている。これは誤りであり、米中両国のためにもならない。我々の受け入れがたい最近の中国の動きに対しては強い姿勢をとるべきだが、いまの米国のやり方では逆効果になる。」こう批判しているのである。書簡はこのような批判を七項目に分けて、それぞれ具体的な問題に沿って批判を加えている。また必要な場面では批判するだけでなくその根拠や背景まで述べて説得力がある。七項目の批判を以下に詳しく紹介しておきたい。


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