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「中国は敵にあらず」、米国の識者百人がトランプ政権の中国政策批判(中) 戸張東夫

「中国は敵にあらず」、米国の識者百人がトランプ政権の中国政策批判(中) 戸張東夫

<中国を国際社会に参加させるべきだ>

1.中国の近年の乱暴な行為――国内の締め付け強化、民間企業に対する国家統制の徹底、
一部の貿易契約の不履行、攻撃性を強める外交政策など――は世界各国に深刻な脅威と受け止められている。このような脅威には米国が断固たる姿勢で効果的に対応しなければならない。だが現在の米国の中国政策ではそれが出来ないのである。

2.中国は経済の敵であるとか、国家の安全に対する実質的脅威だからあらゆる分野で争わなければならないと考える向きがあるが、そんな考えは間違っている。急速な経済成長と軍事力拡大を達成したことから中国は国際社会で従来より大きな役割を果たすことになったとはいえ、政府当局者やエリート幹部の多くは西側諸国とは穏健でプラグマチックで、真に協力的なアプローチで接することが中国の利益に合致することを理解している。米国の敵対的な中国政策はこのようなリーダーたちの影響力を低下させている。競争と協力のバランスをとりながら行動すれば、国際社会で建設的な役割を果たしたいと考えているこのような人たちを後押しすることも可能なのである。

3.中国を敵とみなし、中国を国際経済から引き離そうとする米国の政策は米国の国際的役割や高い評価を傷つけ、全ての国々の経済的利益を損なうことになろう。かりに米国が反対したとしても、中国経済の絶えることない拡大や国際市場における中国企業のシェアの拡大、国際社会における中国の役割の増大を妨げることは出来ない。もし米国が同盟諸国に圧力をかけて中国は経済的にも政治的にも我々の敵とみなすよう説得するなら米国と同盟諸国との関係が弱体化し、その結果中国ではなく米国自身が孤立化してしまうかもしれない。

4.米国の国際社会の指導者としての地位をそのうち中国に奪われてしまうという恐れを抱くのは考えすぎである。そうなることを喜ぶ国はあまりないだろうし、中国自身が米国に取って代わることが必要だとか、可能だとか考えているのかどうかも定かではない。だが国民に与える情報や機会を制限したり、少数民族を無慈悲に弾圧したりする政府である。国際的支持を集めたり、世界各地の人材を呼び込むことは出来ないだろう。このような状況に対処する一番いい方法は、同盟国や友好国と協力してもっとオープンで豊かな国際社会を作って、中国にも参加する機会を与えることだ。中国を孤立化させるのは、人間的で、寛容な社会を発展させたいと考える中国の人たちの立場を弱くするだけである。

5.中国は今世紀半ばまでに世界レベルの軍事強国になるという目標を定めたが、世界的軍事大国として行動するまでには大きな障害を乗り越えなければならない。だが中国の増大する軍事力によって、西太平洋における米国の長年の軍事的優位はすでに崩れてしまった。この状況に対応する最良の方法は、終わりのない軍拡競争に着手し、攻撃用兵器を作ることでも、世界中で米国の優位を再確立することでもない。もっと賢明な方法は同盟諸国と提携して抑止力を維持すると共に防衛目的であることを強調しながら領域拒否能力、抗堪性(こうたんせい、resiliency, 基地や施設が攻撃を受けた場合、被害を抑えて、その機能を維持する性能、survivability とも)を保持し、それと同時に中国と共に危機管理を強化するということである。

6.中国は国際社会における西欧の民主主義的な価値観の役割を弱めようとしている。だが経済やその他のきわめて重要な要素を覆そうとはしていない。中国にしても長い間そこから利益を得ていたのである。中国の国際社会への関与は国際社会が生き延びるためにも、気候変動のような共通の課題に効果的に対処するためにも不可欠である。米国は新たな国際社会であれ、修正を加えた国際社会であれ、中国の参加を奨励し、そこでは新興諸国にこれまでより大きな発言権が与えられる。

7.要するに米国の中国政策を成功させるには、他の国々と長続きする提携関係を結び、経済や安全保障問題で支えあっていくべきである。結局米国が世界の変化の中で効率的に競い合う能力を回復し、他の国々や国際機関などと手を携えて活動することこそがもっとも米国の利益に適っているのである。中国の国際社会への関与を妨害したり、封じ込めたりする非生産的な政策を進めることは米国の利益にはならない。

<公開書簡は利敵行為か>

現地では公開書簡の署名者の中には民主党系の元政府高官や中国研究者らが多いとか、“パンダハガー(panda hugger)”と呼ばれる中国べったりの親中国派も少なくないとか、米国が中国と厳しい貿易摩擦を抱えているだけでなく地球規模の覇権争いを進めているこの時期にあえてこのような公開書簡を発表したのでは米国の中国政策が分裂しているかのような印象を中国に与える。これは利敵行為に他ならないなどワシントンの中国、アジア政策関係者の間で大きな話題になっているが、公開書簡の背景は詳らかでない。

トランプ大統領なら米国の中国政策の分断を図ろうとする中国の陰謀だなどと言いかねない。中国外交部のスポークスマンは公開書簡が発表された翌4日の定例記者会見で質問に答える形で「公開書簡の理性的、客観的な主張と立場に我々は同意する。」「米国が米国内と国際社会の理性的意見と建設的意見に真剣に耳を傾けることを希望する」などと公開書簡を手放しで歓迎しているのである。

このような状況なので、この書簡で述べられた「中国は敵にあらず」という考え方がいまの米国の中国政策にどの程度の影響を与えることが出来るのかは定かではないし、心もとないところである。だが筆者もそこまで考えたわけではない。ただ署名した人たちの中にはわが国でもよく知られた中国研究者も少なくない。有名な知識人も名を連ねている。そういう人たちが百人集まって声を上げたのである。たとえパンダハガーの行動だとしても無視することは出来まい。というわけで公開書簡を紹介したようなものだが、米中関係やトランプ政権の外交政策を考える上で貴重な文書といってよかろう。


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