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映画『空母いぶき』とアジア太平洋地域の不安定な平和(下) 戸張東夫

映画『空母いぶき』とアジア太平洋地域の不安定な平和(下) 戸張東夫

<中国は尖閣諸島への圧力で日米安保条約を試す?>

最近の尖閣諸島では異常に数の多い中国漁船が押し寄せたり、領海内で操業中の不審船がわが国の巡視船に体当たりして逃走をはかるといった事件が起こっていないので大きなニュースにはならない。だが日中関係がやや好転したとはいえ尖閣諸島をめぐる状況はほとんど改善されていない。鹿児島港を尖閣諸島の警備拠点とするという政府の方針を報じた中で『読売新聞』(2019年6月14日)は次のように述べている。

 


「日本が尖閣諸島を国有化した2012年9月以降、周辺海域では中国公船が接続水域(領海の外側22㌔)を連日のように航行。月に数回のペースで領海にも侵入している。最近は、接続水域の航行が連続63日(13日時点)に及び、過去最長を更新し続けているほか、3000㌧以上の公船を相次いで投入するなど、動きを活発化させている。」

驚いたのは昨年(2018年)1月尖閣諸島周辺の接続水域を中国の潜水艦が潜水したまま航行したこと。日本政府はその後写真を公表し、攻撃型原子力潜水艦「商級」だったと断定した。中国海軍のフリゲート艦も随伴していたという。わが国政府が中国に厳重な抗議をしたことは言うまでもないが、これに対して中国政府のスポークスマンは「中国が自らの領土近くの海域で行う行動を非難されるいわれはない」と主張したという。アジア太平洋地域の平和が不安定でもろいものであることを改めて痛感させられた。

「中国が尖閣諸島周辺に数多くの艦艇を送り込み、軍事的圧力をかけているため東シナ海における日中間の緊張や事故、誤解などによる事態悪化の可能性が高まっている。米日安全保障条約の条文にかんがみれば尖閣諸島周辺における中国の軍事活動の拡大は、日本保護を約束した米国の安全保障に対する挑戦というべきである。」

米議会の諮問機関「米中経済安全保障調査委員会(USCC)」は2018年の年次報告(11月)の中でこのように強調して中国を牽制した。

<米国は「外部勢力」、「域外国家」?>

アジア太平洋地域のホットスポットをこうして見てくると、どこであろうと、また中国の意図がどうであろうと中国が何らかの行動に出ると必ずといっていいほど米国がその前に立ちはだかってそれを押しとどめる。そんな図式が定着している。「米国は太平洋の彼方からどうしてアジア海域に出てきてわれわれにチャレンジしてくるのか」中国当局の声明や政府高官の発言にはそんな米国に対する敵愾心や反感がしばしばにじみ出ているような気がしてならない。

「台湾問題は中国の主権と領土の問題だ。何者かが台湾を分裂させようとするなら、中国軍はいかなる代償を支払ってでも、戦うことをためらわない。(台湾政権与党の)民進党と外部から干渉する勢力に、中国軍の決心と意志を見くびれば、極めて危険だと通告する。」

「南シナ海には毎年十万隻以上の船が通過するのに、域外国家が『航行の自由』の名を借り、大量の兵力を投入している。中国は自国の領土の上に(人工島を)建設しており、これは主権国家の正当な権利だ。島々の防衛施設は自衛のためだ。」

この(2019年)6月シンガポールで開かれた「アジア安全保障会議」で中国の魏鳳和国務委員兼国防相は「米国を意識した攻撃的な発言」の中でこのように中国のかねての主張を繰り返した。(『読売新聞』2019年6月3日)「外部から干渉する勢力」「域外国家」という表現にもあからさまな嫌悪感がうかがわれる。


<中国の軍事戦略は米国の介入阻止>

中国の総合的な対米軍事戦略にも中国のこうした対米感情が色濃く反映されている。中国の軍事戦略は「A2AD」戦略というものである。「A2」は「Anti Access(接近阻止)」、「AD」は「Area Denial (領域拒否)」のそれぞれ訳語である。伊豆諸島からグアムに至るラインを「第2列島線」と呼び、この内側で米軍の作戦行動や増援を阻み、さらにわが国の南西諸島からフィリッピンに至るラインを「第1列島線」として、その内側に米軍を侵入させないという二段構えになっている。

前述の「アジア安全保障会議」における魏鳳和国防相はさらに次のように述べている。「中米関係は、協力すれば双方の利益となり、争えば共に傷つく。衝突して戦争になれば両国ばかりか全世界の災いとなる。中米関係が正しい軌道に向かって発展することを希望する。」

筆者も「米中関係が正しい軌道に向かって発展する」ことを心から希望する点では人後に落ちるものではない。だが米中関係を正しい軌道に乗せるためにわれわれに何ができるのであろう。
 
映画『空母いぶき』ではわが国の領土である離島を占拠した「東亜連邦」との武力衝突は国連の介入で戦争に拡大しないで終わることができた。だがアジア太平洋地域の不安定な平和はどこへ向かうのだろうか?



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