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第488回 国境の意識がない少数山岳民族  直井謙二

第488回 国境の意識がない少数山岳民族  直井謙二

第488回 国境の意識がない少数山岳民族

ラオスとミャンマーと国境をまたぐ黄金の三角地帯の一角にあるタイのチェンライ県で認知症と思われる59歳の女性が息子に会うと外出し640キロ離れた中国の昆明で8か月ぶりに発見されたというニュースが今年の2月に流れた。

娘が昆明に向かい母親と再会し無事帰国した。どういうルートでどのくらいの歩いたかなどは不明だという。8か月という期間と640キロという距離、それに国境をどう越えたかなど話題になったが、行方不明になった女性がアカ族という少数民族だったことが昆明に向かわせたのではないだろうか。

写真は行方不明になった女性が住んでいるチェンライの丘から撮ったものだ。眼下に青い屋根の寺が見えるがミャンマー様式の寺で崖を下りれば簡単にミャンマー領に入れそうだ。アカ族のみならず少数民族は国境線の意識は希薄だ。

元々は中国南部の山岳地帯に住んでいたアカ族の一部が50年から100年ほど前ラオスやミャンマーそれにタイに移動し、そのうち6万5000人がタイに住み着いたとみられている。行方不明になった女性のアカ族の親戚が中国の昆明に住んでいたとしても不思議ではない。弟に会うと言って出かけたというが別の親戚が女性の記憶の中にあった可能性もある。また、ミャンマーやラオスそれに中国に住み着いているアカ族とは言葉も通じたのではないだろうか。彷徨する途中でアカ族から食事や宿を提供されていたとも考えられる。

一方、ベトナム戦争での山岳民族の活躍に焦点が当たっていない。アメリカ軍を苦しめた秘密軍事ルート、ホーチミンルートの建設は1959年から始まり北ベトナムの559部隊が担ったが、初代司令官だった故ボー・バンさんにインタビューしたことを思い出した。アメリカ軍に見つからないようにルートはラオスとの国境になっているチョンソン山脈の山奥に作られた。最初は徒歩で戦略物資を運び南の解放軍に届くまで半年かかったという。

ホーチミンルートは国境を越えラオス領内にも伸びている。徒歩で自由に国境を超える山岳少数民族も物資の運搬に活躍した。少数民族とってみれば国境などは誰かが勝手に布いたものだ。海側の国道一号線沿いのルートには空のトラックを走らせアメリカ軍に爆撃させたという。作戦に気が付いたアメリカ軍は後にチョンソン山脈沿いに枯葉剤を巻き、ラオスを爆撃した。

行方不明になった認知症と言われる女性も帰巣本能に従って歩き国境を越え中国にたどり着いた可能性がある。

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