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第19回 みどりの建築 竹森紘臣

第19回 みどりの建築 竹森紘臣

第19回 みどりの建築

ベトナムは南北に長い国土を持ち、北部、中部、南部でそれぞれ気候がちがう。大半の方は東南アジアの国だから常夏をイメージするが、常夏なのは南部だけで中部、北部には日本ほど寒くはないが冬がある。北部のハノイでは気温が8度ぐらいまで下がり、山間部では氷点下近くなるところもある。それでもベトナム全国で一年中木々が生い茂り、緑豊かな町並みを保っている。おおくの住宅の屋上やバルコニーには住民によって豊かに植物が飾られている。同じ東南アジア国のシンガポールで政策的な建物緑化が行われているが、ベトナムでは古来の文化として根付いており、それらが大きな熱帯種の街路樹ともあいまって緑の町並みを形成している。

ベトナム人の緑化は室内からの鑑賞や太陽の強い日差しをさえぎるためだけでなく、建物の外観のデザインを意識して住民がおこなっているのが特徴だ。それぞれの時代によってその時代の様式で建てられたさまざまな外観の建物に、それにさらにもう一層の外観を住民が植物によってつくっている。

その緑の外観のタイプはおおきく3つに分類される。1つはバルコニーの床や欄干に植木鉢を置いて飾るものである。(写真1)フランスによってもたらされたコロニアル様式の建築はバルコニーが建物の外壁に配されているが、ベトナム人ではバルコニーは外に出て憩ったり日本のように洗濯を干す場所というよりは植物を飾る場所になっていることがおおい。住民は室内からの住民自身のためだけではなく、建物前の道からの見た目も気にしながら植木鉢をならべて楽しんでいる。

2つ目のタイプは建物の外壁やバルコニーにさらに植木鉢を載せるための台を取り付けたタイプである。これらの例は団地におおい。(写真2)既存のバルコニー部分は壁をつくって内部空間を広くするために増床し、その壁の外側にさらに植物を置くための鉄製の台を取り付けている。タイプ1よりもさらに外部装飾としての役割がおおきい。植物をつかって自分たちの住処を飾りついけているのである。

3つ目のタイプは建物の外壁に植木鉢を建築化して付けたものである。(写真3)このタイプは1つ目、2つ目の派生系といえよう。その外壁植木鉢の配置により室内からは2階であっても庭先に植物が植わっているように演出し、外部からは外壁に木々が飾られているよう見える。一輪挿しのように木が一本植えられていたり、小さな植木鉢をたくさん貼り付けて空中花畑のようにしたりして通行人の目を楽しませてくれる。

日本では建物の前面の道路と建物間のスペースや歩道に植物が飾られたりしているが、ベトナムの市街地では道路との境界線ギリギリに建物を建てるので難しく、また歩道にはバイクが置かれてしまうため家先にはスペースはほとんどなくなってしまう。そのため外部空間を立体的な庭としてつかうようになり、さらにそれが発展して庭がだんだん建築化されていったといえる。現在ではベトナムではおおくの建築家が緑化建築を試みている。これらの建築は新しく発明されたものというよりはベトナムにもともとある大衆的な居住空間を現代的なデザイン言語によって洗練されたものである。今後このような緑豊かな建築と町並みのさらなる発展を期待したい。



写真1枚目:緑化されるバルコニー(旧市街、ハノイ、ベトナム)
写真2枚目:植木棚が取り付けられた団地(ハノイ、ベトナム)
写真3枚目:植木鉢が建築化された住宅(旧市街、ハノイ、ベトナム)
map:旧市街(ハノイ、ベトナム)

 

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