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第20回 ベトナムのお茶 竹森紘臣

第20回 ベトナムのお茶 竹森紘臣

第20回 ベトナムのお茶

日本の茶道の裏千家大宗匠、千玄室氏からベトナムの大手IT企業のFPT本社に茶室が先日寄贈された。日本とベトナムの外交関係樹立45周年の今年を目標に建設が進められた。大宗匠が自ら茶室披きのためにハノイを訪れ、平和を祈念しておおくのベトナム人のためにお茶をふるまった。茶室の寄贈はお茶を通して日本文化への理解をはかることを目的としている。日本の茶道は礼儀作法を重んじ、それを教育する場でもある。また古来から人の交流のばでもあった。茶室を受け取ったFPTという会社にとっては茶道を通して社員教育を行おうという向きもあるようだ。

さて、日本にお住いの方々にとってベトナムといえばお茶よりも練乳入りのベトナムコーヒーの方が馴染みが深いと思うが、ベトナム、特に北部はお茶を飲む文化がたいへん深く根付いている。祭壇(日本でいうと仏壇のようなもので各家庭やお店に必ずある)にもお水ではなくお茶をお供えするほどだ。ベトナム人のお家に食事に招かれると必ず食後にお茶を淹れてくれ、みんなでいただきながら談笑をする。お茶の種類は緑茶がほとんどで、摘んでから一晩ほど干したもので淹れるTra Tuoi(生茶)が伝統的なお茶であるが、このお茶は非常に渋みが強く慣れないと体調を崩すこともあるほどだ。現在では烏龍茶のようにすこし発酵させたお茶を淹れることがおおい。ベトナムでの茶飲習慣は1000年前の文献にも記されているといわれ宮廷茶の作法も残っている。この作法は日本に比べると小さな急須と茶碗で行われ中国のお茶の飲み方とよく似ている。またベトナムも中国とおなじで茶葉文化であり、日本の抹茶のような粉末状のお茶を使うことはない。

ベトナムの街にはいたるところに茶店がある。茶店といっても路上にお風呂の椅子のような小さな椅子をならべただけのものである。キッチンや煮炊きができるような設備はない。茶店の店主はお茶が入った大きな急須、氷の入ったクーラーボックスとコップをつかって商売をする。ベトナムの人々は老若男女問わず仕事の合間や友人との付き合いのちょっとした時間をみつけてはそこでTra Da(Tra=茶、Da=氷)つまり氷が入った冷たいお茶を飲んで時間を過ごす。気安い雰囲気で知らない人同士でも気軽に話がはじまり非常にオープンな場所だ。

ベトナムはお茶の消費量だけでなく生産量もおおい。その高温多湿な気候がお茶に適しているといわれ、輸出量は世界第5位にものぼる。有名な産地は北部のタイグエン省で日本でいうと静岡と同じように国内でもお茶の産地として馴染みが深い。ほかにも中部のラムドン省やゲアン省の一部などの高原でも生産されていて、日本のお茶畑と同じように美しいランドスケープを生み出している。現在は高級茶などの開発もさかんで、他国との差別化をはかり輸出国としてのブランド力を高めようとしている。

一方でベトナム国内では若者を中心に台湾紅茶とよばれる甘いミルクティーが流行していて茶飲文化もおおきく変わりつつある。値段でいえば10倍以上するミルクティーの人気の理由は、その味ではなくおしゃれなデザインのパッケージや露天の茶店よりもインスタ栄えするカフェの雰囲気だ。またスターバックスの進出をきっかけにベトナムのひとびとも「ベトナム流ではないコーヒー」、日本でいう普通のコーヒーも飲むようになった。このコーヒーもブームとなり本格的な西洋的なカフェが競うようにつくられ、新たな文化を醸成しつつある。このようにグローバルに展開する外国企業からの目新しい商品につい惹かれてしまうのだが、1000年以上も続いてきたベトナムの茶飲文化も、そしてみんなが集う露天の茶店のようなスペースもぜひ後世に残ってほしいと願う。


写真1枚目:露天の茶店(旧市街、ハノイ、ベトナム)
写真2枚目:お茶畑と住宅(ゲアン、ベトナム)
map:お茶の主な産地(ベトナム広域)

 

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