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第7回 龍と竹のゴシック・カテドラル:西什庫教堂 東福大輔

第7回 龍と竹のゴシック・カテドラル:西什庫教堂 東福大輔

第7回 龍と竹のゴシック・カテドラル:西什庫教堂

地下鉄の「西四」駅からしばらく歩いたところの、ちょっとした賑わいのある場所。その奥にあるのが北京最大のカソリック教会「西什庫教堂(シーシィークー・ジャオタン)」である。

北京には、東西南北それぞれの方向に大きなカソリック教会があり、これはちょっと北寄りにあるので別名「北堂」とも呼ばれている。どうやら、その昔、「南堂」ではスペイン/ポルトガル/イタリア出身のイエズス会士が、この「北堂」ではドイツ/イギリス出身のイエズス会士が多く活動していたらしい。現在建っている建物も、南堂はバロック、北堂はゴシックで、在籍者の郷土に建っている教会の様式を微妙に反映しているかのようで面白い。もっとも、現在建っている建物はゴシック様式の教会が盛んに建てられていた中世のものではなく、清朝末期の1887年、光緒年間に建てられたものであるので、単なる妄想に過ぎないのだろうが。

それはともかく、建物に向かうと、その左右に中国風の瑠璃瓦が葺かれた東屋があり、その中には亀に似た神獣:贔屓(ビーシー/ひいき)に乗った石碑がある。加えて、教会の前庭には多くの石獅子が並べられており、のっけから西洋的建築と中国趣味の奇妙な同居を見せつけられる。

そして、教会の立面をよく観察すると、龍頭(ロントウ)と呼ばれる龍の形の彫刻があちこちから顔を出している。この龍頭は、紫禁城の宮殿の基壇にもたくさん並んでいるが、雨が降った時に口から水を吐き、雨水の排水を行う設備だ。西洋のゴシック教会は、しばしば「ガーゴイル」と呼ばれる怪物の彫刻によって排水を行っている(映画「バットマン」で、バットマンがゴッサム・シティを見下ろすシーンで、その傍によく描写されるのが「ガーゴイル」だ)。つまり、この建物では西洋のガーゴイルが中国の龍に置き換えられているのだ。これを見て、中国人職人と西洋人聖職者の「ガーゴイルは難しいけど、龍頭ならすぐ作れるよ」「龍も怪物の一種ではあるし…まぁ、いっか」などというやり取りを想像して、なんだかおかしくなってしまうのである。

教会の中に入る。ゴシック教会の特徴として、柱を細く束ねたように見せ、高さを強調するというのがある。おそらくヨーロッパ北部の森林のアナロジーではないかと言われているが、ここの柱は、明らかに「竹林」のアナロジーでデザインされている。全ての柱が孟宗竹のように緑色に塗られ、節が真鍮で作られているのだ。ラテン十字形で身廊と側廊を持つ平面や、キリストや十二使徒が描かれたステンドグラスなどの教会建築の特徴は押さえられているものの、その細部においてはことごとく中国化されているのだ。

堂内を見学させてもらっていると一人の信者に声をかけられた。教会の入り口に設置されたパイプオルガンを指差し、「世界で3つしかない大型のものだ。文化大革命の時に紅衛兵によって破壊されてしまったが、去年、やっと修復されたんだよ」と嬉しそうに語っていた。つい最近まで文革の傷跡があったことに驚かされる。

現在の共産党政権下においては、組織力のあるカソリックはプロテスタントに比べ、中国国内での活動は制限されている。だが、信者たちは中国化されたゴシック教会の中で、熱心に信仰しているように見受けられた。


写真1枚目:西洋の様式と中国趣味が共存する外観
写真2枚目:内観。竹林のアナロジー
map:<西什庫教堂>
北京市西城区。地下鉄4号線「西四」駅下車、D出口から徒歩10分


 

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