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第570回 ウクライナ戦争とルーブル 直井謙二

第570回 ウクライナ戦争とルーブル 直井謙二

第570回 ウクライナ戦争とルーブル

2014年のクリミア侵攻から始まったロシアとウクライナの確執が戦闘となり停戦協議も行われているが先行きは混とんとしている。クリミア侵攻に伴い始まった国際社会による経済制裁は一段と強まりロシアの通貨ルーブルが暴落、ロシア市民が現金を引き下ろそうとATMに殺到するなどロシアの経済は一層険しくなっている。

旧ソビエト時代からルーブルはたびたび国際的な信用を失ってきた。80年代半ば、カンボジアのポシェントン空港のホールにはロシアの故ガガーリン宇宙飛行士の等身大のパネルが飾られていた。中国が支援するポルポト派を制圧するためヘンサムリン政権は軍事演習を繰り返し、西側記者にも公開していた。使われるタンクは旧ソビエト製でカンボジア兵士を指導するのはロシア兵士だった。(写真)

カンボジアを含め勢力範囲をアジアに拡大したい旧ソビエトの思惑が垣間見えた。一方で経済は低迷していた。プノンペンで買い物をすると店員からキャビアを勧められた。キャビアの缶詰は旧ソビエト製でロシアの観光客が持ち込んだものだという。カンボジアでは、国際的にはすでに信用されていないルーブルで買い物ができないためロシアの観光客は価値が変わらないキャビアの缶詰を持ち込むのだった。数年後、旧ソビエトは崩壊した。拡張主義が経済破綻を呼んだ。

それからおよそ20年後、タイの海のリゾート地パタヤを訪れた時、その様変わりに驚いた。ベトナム戦争中、アメリカ兵の休息所として発展したパタヤはロシア人であふれていたからだ。寒いロシアとって常夏の海辺は魅力的なのだろう。ロシア製のキャビアは見られず、ルーブルが国際的に通用していることを裏付けた。20年におよぶプーチン政権はロシアを再び拡張主義に戻した。3月の朝日新聞の天声人語は経済学者ケインズがレーニンの「資本主義を破壊させる最善の方法は通貨を堕落させることだ」という言葉を紹介し、1990年代はソビエト崩壊を受けルーブルが下落し、外国タバコが通貨代わりだったと書いていた。

旧ソビエト時代にカンボジアで拡張主義とルーブルの堕落を体験した。20年以上かけてロシア経済を再生し、ようやく国際的に評価されるルーブルに戻ったが、ウクライナ侵攻で再びルーブルが堕落し物々交換に戻る懸念もある。国家が拡張主義になると経済が破綻し市民生活が苦しくなるということだ。

プーチン大統領には祖国のレーニンの言葉をかみしめ、ロシア国民の生活を重視してほしいものだ。

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