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第568回 取材が難しかったカジャン族 直井謙二

第568回 取材が難しかったカジャン族 直井謙二

第568回 取材が難しかったカジャン族

広くアジアを取材していると様々な壁にぶつかることがある。軍事独裁国家が取材ビザを発給しないなどが典型だが、記者としては逆にファイトが湧く。押されている使用中のパスポートを新しいパスポートに切り替え、記者である身分を隠しビザを申請したり、地下に潜った反政府勢力の協力を得たりする。

初めて訪れる国にようやくたどり着いたが、取材現場に行く方法が分からず言葉も通じずに途方に暮れることもある。90年代の初めインドネシアの南スラウェシ島の少数民族カジャン族を取材した。インドネシア人の通訳を3人伴ってカジャン族の住む村に向かった。13,000の島に300の民族が暮らすインドネシアでは言語が250以上もあり、インドネシア語が通じない地域が多い。カジャン語をインドネシア語に訳す通訳が見つからず、別の民族語を迂回するためインドネシア語から日本語への通訳の他に2人必要だった。

村の6キロの所までは車で向かったが、カジャン族に怪しまれないように徒歩に切り替えた。炎天下、重いテレビ機材を抱えて6キロの徒歩移動でくたくたになった。村に到着すると通訳の1人が服装を変えなければならないと紺色の民族衣装を差し出した。カジャン族は紺色の染色技術に誇りを持っていて成人は民族衣装に着替えなければ例え政府の役人でも村に入れないという。インドネシアには独自の文化を守る民族がまだまだ多く存在する。

筆者はさっさと紺色の民族衣装に着替えたが、カメラマンは抵抗した。民族衣装を着用すると動きが鈍くなり撮影に影響するというのだ。理解はできるが村に入れなければ取材できないとカメラマンを説得した。カメラマンは仕方なく着替えたが確かに似合わない。(写真)取材中なので笑いをこらえるのに必死だった。

染色技術をどう発展させたかなど一通りの取材を終えホッとすると徒歩と取材で喉が渇ききっていることに気が付いた。現地の水で水あたりを起こし2、3日取材にならなかった苦い経験を思い出していた時、筆者らの様子に気が付いた村民がヤシの実を持ってきてくれた。ヤシの実のジュースは何度飲んでも青臭さが残りなじめなかったが、背に腹は代えられない。喉の渇きに一気に飲み干した。そして、喉が渇ききった時に飲むヤシの実ジュースはおいしいものだと初めて気が付いた。同時にかたくなに風習を守る一見頑固そうなカジャン族の村民の優しさに触れ、イメージが一新した。ヤシの実ジュースとともに、さわやかな後味が残った。

《アジアの今昔・未来 直井謙二》前回  
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