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債務不履行、コロナ禍もあって不動産業は依然低迷-景気悪化恐れ、当局のテコ入れ策も(下) 日暮高則

債務不履行、コロナ禍もあって不動産業は依然低迷-景気悪化恐れ、当局のテコ入れ策も(下) 日暮高則

債務不履行、コロナ禍もあって不動産業は依然低迷-景気悪化恐れ、当局のテコ入れ策も(下)

 

<不動産業テコ入れと不況の継続>

昨年末の財政部の部内会議で不動産税導入が提唱されたものの、結局、当局は3月中旬、同税導入の見送りを正式に発表した。前述のように、昨年秋以来、前月比でずっと不動産価格は下がり続けており、これ以上の冷え込み策は経済全体を悪化させることも懸念される。特に、今年になってコロナの感染拡大防止のため人流、物流が抑制、工場も閉鎖された。さらにはロックダウンというより“過激な”措置が取られ、景気が一気に後退してしまった。不動産市況の低迷から全体の経済悪化を招けば、習主席は3期目の権力トップ継続を狙う今秋の党大会を控えて、自身の最高指導者としての権威を損ねる恐れがあると判断したものと思われる。

地方政府財政の悪化を懸念して、当局は不動産業界への資金投入制限を緩めだした。貸し出し額の制限や金利の引き下げを行い、頭金の納入比率も抑えた。公的資金からの貸与も緩和し、本当に居住用に購入する人には補助金も出している。米系華文ニュースによれば、安徽省淮北市では、同市で住宅を購入した省外の人や企業に対し、1軒目の住宅である場合1平方メートル当たり600元、2軒目以上であっても同400元の奨励金を出すことにした。また、頭金も2割以下に抑え、1軒目住宅のローン金利も5・1%に引き下げる優遇措置を打ち出した。この淮北市を含む秦皇島、大連、蘭州、蘇州、南京、上海など17の都市で4月以降、優遇措置を実施している。

中国メディアによると、南京市では戸籍を持たない人、税や社会保険料を払っていない人でも住宅購入できるというよう制限緩和措置が取られた。ハルビン市(黒竜江省)や青島市(山東省)では、住宅転がしを防ぐために取得後3年間の保有義務があったが、これも撤廃した。だが、こうした措置を受けても、一般市民からの激しい購入意欲は起きていない。それはコロナによる外出規制などで、住民の社会参加意識、投資マインドなどが落ちているためだ。その結果、不良債権を抱えた銀行は相変わらず不動産方面への資金提供には慎重な姿勢を崩していない。日経新聞によれば、恒大集団が大株主の盛京銀行、民営最大手の民生銀行、中信銀行など17行で21年末の不動産融資残高が20年末に比べて減少した。22年に入っての景気刺激策を受けて再び反転して融資増に出るかと思いきやブレーキがかかったままだ。同紙は「2022年も不動産向けの厳しい融資姿勢は続くのでは」と見通している。

佳兆業集団は昨年12月末、満期を迎えた4億ドルの債券を償還できず、約1億6000万ドルの利払いも期限までにできなかった。広州の中堅不動産である中国奥園集団は、今年1月20、23日に満期を迎える米ドル建て債を含めて総計10億8600万ドルのオフショア債券をすべて償還しない方針を明らかにした。これらに続いて、5月に入りまたまたデベロッパー企業の“凶報”。企業ランクナンバー3の融創中国が5月12日、オフショア債券の一部で期限までに利払いができず、事実上債務不履行になったと発表したのだ。同社の7億5000万ドルの社債は2023年10月が満期であり、今期では2950万ドルの利払いが必要だった。だが、30日の利払い猶予期限となった5月11日になっても利払いは実行されなかった。こうしたデフォルトによって、中国のデベロッパーが再び海外で資金調達するのは難しくなった。

 <恒大集団のその後>

恒大集団は昨年12月7日までに2億5520万ドルの利払いができず、国際的な格付け会社「フィッチ・レーティングス」から「部分的なデフォルト」と認定された。同じく「スタンダード&プアーズ」も格付けを「ダブルC」から「SD(デフォルト)」に替えた。このため、今年年明け早々に香港の証券取引所では取引停止となった。この結果、恒大のビジネス状況は悪化、すでに住宅購入した人の中には物件が引き渡しされないのではないかと不安視する人も出てきた。当局は、国有企業で財務体質が良い企業に対し、恒大などの優良な不動産の買い取りを指示するとともに、不動産企業そのものにもさらなる社債発行を認め、資金ショートさせないような措置を取った。外貨建て債の償還不履行の一方で、人民元債には利払いを続けさせる策である。

ただ、恒大集団は企業、経営者とも当局の厳しい監視下に置かれていることは事実だ。日経新聞によれば、恒大が広東省と雲南省に持つ不動産開発の子会社2社が資源関係国有企業「中国五鉱集団」傘下の「五鉱信託」に3兆4000億元で買収されたという。深圳の本社は、同市南山区の43階建てビル「卓越后海金融センター」の10フロア以上を賃借して構えていたが、ここはすべて明け渡した。ビジネスシティーの深圳に掲げられた大きな社名の看板は企業イメージを膨らませていただけに、その撤去は巨大企業の終末を感じさせた。許家印オーナー(会長)の豪邸も売りに出された。広州市珠江新城金碧華府小区にあるマンションの頂上部25階にあるその豪邸は住宅面積753平方メートル。市場価格だと1億1000万元と言われるが、売り出し価格は8000万元だという。

恒大集団が海南島の人工島リゾート「海花島」に建設した建物39棟について、海南省儋州市が違法建築だとして解体を命じたことが明らかになった。海花島プロジェクトは同社が社運を賭けた事業で、6年間の総投資額は810億元。上空から見るとペルシャ湾上に椰子の木状に埋め立てられた中東ドバイの高級住宅地パームジュベイラが有名だが、海花島もこれを模して海上に花が開いたように埋め立てられている。敷地土地43万平方メートルの中に6万1000戸が入居可能なマンション群が並ぶ。トンキン湾が望める抜群の住環境にあるだけに人気を呼び、昨年だけで販売契約面積は5427万平方メートル、契約額は4430億元に達した。解体命令に対し恒大は承服せず、当局と事業継続で話し合いを進めている。だが、資金調達で存続が難しくなっている。

それでも、許家印会長は意気盛んだ。昨年末の部内会議で「我が社は昨年9,10,11月、契約数は1万件にも満たなかった。しかし、12月は、115カ所のプロジェクトで最後の5日間、ラストスパートをかけて月間売り上げ目標の3万9000件の成約に漕ぎつけた」と強調、「社員誰一人寝そべって(躺平)はならない。幹部は率先して努力していこう」と呼びかけた。また、今年新年の仕事始めの集会では、「今年の顧客への引き渡し目標を66万戸、7000万平方メートルの住宅規模にする」と述べ、発破をかけた。同社の好況ピーク時は一年で50-60万件の契約があったと言われており、許会長の目標はこれを上回る目標数を提示したわけだ。

恒大は借金をどうするのか。ロイター通信が5月27日、消息筋の話として伝えたところによると、オフショア債券190億ドル分については今年7月までに組み替え計画を発表し、12月までに投資者との合意を得るとしている。それは、分割で現金で償還するほかに、香港に上場する恒大物業、恒大汽車(自動車)の傘下企業2社の転換社債と交換する方法だとされる。要は、金を借り直して、債務の返還期限を7-10年くらい先延ばしする計画だ。これによって、オフショア債券の2割程度は2つの企業の株式に替わる見込みだという。中国党・政府も恒大集団に厳しい目を向けながらも、その倒産が中国経済全体に影響を与えることを恐れ、命脈を保つ方向で動いているようだ。

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