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河南省、安徽省など中国で村鎮銀行の取り付け騒ぎ相次ぐ-もともと農村小規模は難しい(上) 日暮高則

河南省、安徽省など中国で村鎮銀行の取り付け騒ぎ相次ぐ-もともと農村小規模は難しい(上) 日暮高則

河南省、安徽省など中国で村鎮銀行の取り付け騒ぎ相次ぐ-もともと農村小規模は難しい(上)

 
中国河南、安徽省などの地方都市のしかも農村を拠点とする小規模銀行で、預金が下せない状態が生じている。40万の預金者口座、金額にして400億元が凍結されているという。これらの銀行は、かつて不動産開発などのため高金利の「理財商品」を売り込んだ「影の銀行」や地方政府が公共事業資金調達のため設立した「融資平台」のように、富裕層でない小金持ちを顧客対象として狙いをつけた。このため、預金者は預金凍結を知ってなけなしの金を取り戻そうと当該銀行、人民銀行(中央銀行)の鄭州支店などに押しかけ、「還我血汗銭(苦労して得た金なので返せ)」の横断幕を掲げて、座り込んだ。これまでのところ、公に凍結の理由は明らかにされていない。ただ、これらの銀行のバックに地方の黒社会の存在があり、地方政府とグルになっているという噂もある。省当局は「今秋の第20回共産党大会開催前の大きな混乱はまずい」とばかりに抗議の預金者を銀行に近づけないなどの強制措置を取り、鎮静化を図っている。

 <河南、安徽省の取り付け騒ぎ>

今回の銀行預金取り付け騒ぎは河南省の禹州新民生村鎮銀行、上蔡恵民村鎮銀行、柘城黄淮村鎮銀行、開封新東方村鎮銀行の4行で始まった。これらは銀行と名乗っているが、日本の農協が自治体単位で運営するようなごく小規模の金融機関。4行は「内部システムの更新」という理由で4月18日に全預金を凍結、預金者は自らの口座を動かせないことになった。それ以降、何の説明もないまま、7月になっても預金は引き出せず、「ゼロコロナ」ならぬ「ゼロ引き出し」状態が続いている。4銀行で凍結された預金総額は400億元とされる。年利9-10%の高金利で預金を募ったため、地元の河南省だけでなく、全国各地から金が集まった。この結果、凍結の被害に遭った口座は40万件と言われる。

 

台湾中央通信社によれば、今年4月上旬、開封新東方村鎮銀行の行長(頭取)が当局の取り調べを受けるため連行された。そのことが知られると、まず預金者が同銀行に押しかけ、預金引き出しに掛かった。開封新東方の大株主は、河南省許昌市を本拠とする「許昌農村商業銀行」という金融機関だが、開封新東方行長の取り調べのあと、許昌農商銀の支店長、貸付担当職員らも当局に拘束され、取り付け騒ぎは許昌農商銀にも波及した。さらに、同銀行は禹州新民生、上蔡恵民、柘城黄淮の3銀行でも株式20%以上を持つ大株主であったことから、3銀行でも取り付け騒ぎとなった。

 

ネット上で預金が動かせない状態が続いたことから、預金者約3000人が全国から河南省に押しかけ、中国人民銀行(中央銀行)鄭州支店や地元の銀行保険監督管理委員会ビルの前に「金を返せ」の横断幕を掲げて座り込んだ。コロナ対策上から警察、白衛兵(都市のコロナ対策に当たる城管か)が座り込み者の排除にかかり、暴力事件に発展した。ネットのSNS上では当局側が実力で座り込み者を強制排除している動画が流され、抗議者側からは「全国の人よ。華南事件に関心を持ってほしい」「李克強(総理)よ。河南を調べてくれ」などの文字が打ち込まれた。また、在北京の米大使館のアカウントには「中国は今、あなた方の助けを必要としている」「われわれは長年友好関係にあるロシア大使館に救いの手を求めるのではなく、アメリカ帝国主義の助けを求めたい」などとウクライナ戦争の話を絡めた皮肉な要求もツイートされた。これによって中国の取りつけ騒ぎは世界的なニュースになってしまった。

 

公安当局は、これ以上地方での混乱はまずいと鎮静化に乗り出し、地方から鄭州に集まる抗議者を帰郷させるため、コロナ対策で使う「健康コード」アプリを利用し始めた。スマホ上でコロナの陰性者には「緑」のマーク、陽性者や濃厚接触者には「赤」のマークが提示され、「赤」を受けた人は公共交通機関、商業施設などに入れない。当局はそれを使って鄭州に向かおうとしている健康者に意図的に「赤」のマークを出していたようだ。預金凍結のある銀行に資金を預けた中年夫婦が鄭州に来た際、預金口座を持つ妻の方の健康コードが出発時の「緑」から「赤」に変わった。その一方で、預金口座を持たない夫の方は「緑」のままだったという。2人とも健康であるにもかかわらず、この差が出たのは、明らかに当局が抗議の預金者を排除するために意図的に操作したことは疑いない。

 <預金凍結の原因は何か>

 農村の小規模銀行、村鎮銀行はそもそもどうしてできたのか。中国銀行保険監督管理委員会が2006年末、「農村地域の銀行業、金融機構を制度面で緩和し、社会主義の新農村建設を進めることについての若干の意見」という文書を提示、湖北省、四川省、吉林省など6つの省・自治区の7農村地域で村鎮銀行を試験的に設立することを促した。狙いは、大型商業銀行の恩恵が受けられない地域や人に金融のユニバーサルサービスを提供し、もって農村振興を図ろうということ。だが、背景には当時地方都市でも大規模な工場造成、住宅建設の不動産バブルが始まっていて、農村の小規模銀行でも十分利益が取れるのではないかという甘い読みがあったのであろう。銀行の登録資本は100万-300万元と少額。この結果、2021年末までに全国で村鎮銀行は1651社設立されたという。

 

それでも、リスクを含んだ金融機関であることに変わりなく、それだけに預金者を高金利で釣るしかない。河南省の3銀行が預金者に提示した金利は年9-10%という。常識的にはあり得ない高率だが、特にコロナ禍の下で資金運用、投資先の場がない全国の小資産家の目に留まった。中国人民大学財政金融学院の何平教授によれば、預金者は河南省の住民よりむしろ、ネットで高金利の銀行の存在を知った他省の人が多かったという。検索サイト「百度」系の金融モバイルアプリ「度小満」、スマホ企業「小米」系の「天星金融」、生命保険会社「中国人寿」系の「濱海国金所」、モバイルセキュリティー企業「360集団」系の「你財富」などのネットサイトが村鎮銀行の存在を紹介したため、顧客は全国に及んだ。

 

2010年代に不動産建設を前提に高金利の「理財商品」などを売り込んだ民間の「影の銀行(シャドーバンキング)」や地方政府肝いりの「融資平台」があり、広く小口の資金を集めていた。シャドーバンキングや融資平台は必ずしも詐欺を前提にしたものではないが、結果として多くの企業、団体が破たんして被害者を出している。農村レベルでの貸付で大きな利益を得ることは難しいので、一般に村鎮規模での金融機関の設立は難しい。地元ビジネスマンは「もともと正常な形の金融機関ではない」と指摘する。なるほど人民銀行の発表では、昨年第2四半期段階で122の村鎮銀行がすでに危険な経営状況にあったという。本来、設立状況、採算の見通しなどから見て端から利益を見込めないことは明らかであり、その面で最初から黒社会の“犯罪の温床”として目を付けられてしまったようだ。

 

河南省許昌市公安局は6月18日、同公安局が銀行監督管理委などとともに4月19日、村鎮銀行の預金凍結問題に絡んで「河南新財富集団投資有限公司」を摘発したと発表した。同集団が設立されたのは2011年で、ビジネス支援、企業への投資・管理などを業務内容として資本金1億1600万元で鄭州市鄭東新区に登記された。だが、今回の預金凍結の前、今年2月10日にすでに企業登記は抹消され、活動は停止されている。同集団のオーナーである呂奕なる男はいわくつきの人物で、もともと彼が許昌農商銀を誘って4つの村鎮銀行を設立したという。このため、公安当局は河南新財富集団が黒社会の”表の顔“になっているとして、村鎮銀行の裏側には大規模な詐欺犯罪の構図があると疑い、摘発に乗り出したようだ。

 

中国銀行保険監督管理委も、呂奕が最初から詐取の目的で河南新財富集団、村鎮銀行を設立し、広く金を集め、その後につぶす企てがあったのではないかと見ている。同委の肖遠企副主席は記者会見で、「村鎮銀行は隠れた株主(呂奕ら)の体のいい貯金箱になっていた」と指摘している。河南新財富集団が村鎮銀行を設立する際、原資などを提供したと見られる河南省内の鄭州銀行、平頂山銀行、中原銀行の幹部らにも捜査の手が及んでいる。彼らは呂奕の友人と言われ、私服を肥やすために彼の口車に乗ったようだ。中国では一般に銀行の設立は簡単でないが、前述のように村鎮レベルの金融機関の設立を促す通知が2006年、銀行保険監督管理委が出されたことがチャンスとなった。河南省地方銀行のボスたちが呂奕に銀行づくり、そのシステムのノウハウを教えたためか、設立はスムーズに進んだようだ。

 

河南新財富集団は設立10年余の新興企業にもかかわらず、全国30以上の銀行経営に関与し、傘下に不動産開発、家電量販店チェーンなど100以上の企業を抱え、実業としても力を付けていった。今年春、河南省の事件と同じころ、隣の安徽省の固鎮新淮河村鎮銀行(本部=蚌埠市固鎮県)でも取り付け騒ぎが起きたが、この銀行も河南新財富集団、呂奕オーナーの傘下である。今回、公安当局が同集団を摘発する前に、呂奕自身は早々に海外に高飛びしてしまった。彼は河南省出身だが本籍はキプロスともアフリカのリベリアとも言われており、外国暮らしに慣れている国際人。いずれにせよ、呂奕の逃亡、当局の捜査開始によって犯罪性が色濃くなったため、河南省の村鎮銀行では「システムの更新」という理由でネットバンキングを制限した。それで預金者の不安を煽り、混乱を招いた。

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