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河南省、安徽省など中国で村鎮銀行の取り付け騒ぎ相次ぐ-もともと農村小規模は難しい(下) 日暮高則

河南省、安徽省など中国で村鎮銀行の取り付け騒ぎ相次ぐ-もともと農村小規模は難しい(下) 日暮高則

河南省、安徽省など中国で村鎮銀行の取り付け騒ぎ相次ぐ-もともと農村小規模は難しい(下)

 
<河南事件の後始末>

香港メディアによれば、中国当局は7月11日、村鎮銀行で預金凍結された人たちへの救済策を発表した。救済の対象になるのは禹州新民生、上蔡恵民、柘城黄淮、開封新東方という河南省の4行のほか、安徽省の固鎮新淮河村鎮銀行の預金者。政府が預金支払いの肩代わりをする。7月15日からまず5万元以下の預金者を対象に預金の支払いに応じ、その後に5万元以上の預金口座に対しても順次資金手当てをしていくという。ただ、前述のように、預金が凍結された口座は40万口で、預け入れ総額は400億元。単純平均で見ると、一口座当たり10万元の規模になり、5万元は預金者を満足させられる“補償額”ではない。

 

河南省鄭州市政府は6月22日、健康コードを使って預金者が鄭州市に集結しないよう人為的に外出禁止の「赤」マークを出したことを認め、同市のコロナ対策本部副本部長である馮献彬・市政法委員会副書記を罷免するなど関係者の処分を発表した。習近平国家主席は鳴り物入りでゼロコロナ対策を進めてきただけに、その最大の手段とするべき健康コードを他の目的に悪用したことはさすがに許せなかったようで、厳罰を指示したと見られる。だが、多くの庶民は、今回の悪用で健康コードが感染防止という健康保持のためのツールというより「所詮、人民の自由を制限するための道具」という認識に変わった。ゼロコロナ推進には大きな汚点、マイナスになったことは間違いない。

 

河北省の銀行保険監督管理当局は7月初め、省内にある武強家銀村鎮銀行、阜城家銀村鎮銀行の2つの農村系小規模銀行を解散させ、張家口銀行がこれら2銀行の財産、債権、債務を引き継ぐよう命じた。河南省の村鎮銀行とは直接関わりがないものの、隣の省の出来事の影響を受けた措置と見られる。米系華人メディアによれば、河南、河北両省に先立つ今年4月、寧夏回族自治区でも、寧夏平羅農村商業銀行が平羅沙湖村鎮銀行を吸収合併。7月3日には、瀋陽農商銀行が遼陽農商銀行、遼寧太子河村鎮銀行の預金、職員、ネットシステムなどを引き継ぐことを発表した。河南の取り付け騒ぎをきっかけにして全国的に小規模銀行の整理は進められているようだ。

 

このように、当局側は一定の善後策を講じているものの、小銀行の口座は凍結されたままであることから、預金者の抗議活動は7月に入っても続いている。7月10日には早朝から3000-4000人というこれまで最大規模の抗議者が人民銀行鄭州支店前に集結、「河南省の銀行よ。私に金を返せ」の横断幕を掲げて座り込んだ。警察、白衛兵の人か、あるいは銀行などに雇われた黒社会の人かは分からないが、抗議者を殴打したり、ごぼう抜きにしたりしたあと、大型バスに収容、鄭州財経学院、河南技術学院、科技大学、近くの小学校などに連行した。その一方で、銀行の口座凍結は拡大。河南省、安徽省に限らず、アリババ系アプリ決済サービス「アリペイ」とも連携している「盛京銀行」(本拠=遼寧省瀋陽市)のネットバンキングが使えなくなった。盛京銀行も6つの村鎮銀行の株主になっていることが分かっている。

 <中央政局との絡み>

取り付け騒ぎが注目された河南省のトップ、党委書記は楼陽生氏(62)。浙江省出身であり、習主席が浙江省書記をしていた時の部下。浙江省の政協会議副主席兼党委統一戦線部長から全国レベルの幹部に引き上げられ、海南省党委組織部長、湖北省組織部長、山西省の副書記、省長、書記を経て2021年5月に大きな一級行政区である河南省の書記に抜擢された。今秋の20回党大会では政治局委員に上るのではないかとの見方もされている。順調な出世の背景には、習主席の浙江省時代の部下を意味する「之江新軍」の一人であったことがある。逆に、習主席の反対勢力は、習近平追い落としのために部下の失政を追及することもあり得る。村鎮銀行の預金凍結は河南省に限らず全国的な問題にもかかわらず、独り河南省だけにフォーカスされるのは権力闘争との絡みがあるからではないかとの見方も出ている。

 

李強上海市書記(63)も楼陽生氏同様浙江省地方官僚出身で、習主席の同省党委書記時代に秘書長として支えた「之江新軍」の一人だ。浙江省の省長のあと全国レベルの幹部となり、いきなり江蘇省書記に就任。さらに2017年には中央政治局委員で上海市書記と駆け上がった。これも習主席の後押しがなければあり得ない昇進だ。だが、今年春、ゼロコロナ政策で上海市の完全都市封鎖が実施されたため、経済が衰退、自由を制約された市民が反発したことで、李強書記がその批判の矢面に立たされた。ところが、6月末に開催された上海市の党代表大会では再び党委書記に選ばれており、失脚の気配はない。習主席が強力なバックアップ態勢を敷いているようで、今秋党大会の人事で中央入りすることは確実だ。

 

習主席の力を背景にすれば、河南省の楼陽生書記も同じように出世の道を踏み外すことはないと思われるが、政治の世界は「一瞬先は闇」。昨年7月、河南省で水害が起きた際、その対応不十分の責任を問われて徐立毅鄭州市書記が罷免された。彼も「之江新軍」の一人であるが、習主席でも守り切れなかった。上海市、河南省人事を含めて夏の北戴河会議でどういう話し合いが行われるのか。世界の耳目はそこに集まっている。

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