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第346回 アジア諸国の反日感情 1  直井謙二

第346回 アジア諸国の反日感情 1  直井謙二

第346回 アジア諸国の反日感情 1

アジアで長く取材を続けていれば第2次大戦による反日感情にぶつかることは避けられない。反日感情と言っても一様ではなく国によって微妙に違う。言うまでもなく中国、韓国は厳しい。ソウルの繁華街のバーでは「独島(竹島)は韓国の領土」という歌を唄うことを強制されたし、中国の政府系シンクタンクの若い研究員は涙ながらに戦時中の日本軍の非道を訴えた。東南アジアでは中国や韓国ほど目立たないが、長時間滞在していると意外なところで反日感情に触れる。

1990年代の初め。インドネシアのスラウェシ島の近く、名もないような小島でグローブなど香辛料の収穫を取材していた時のことだ。突然、現地の老人が歌を唄いながら近づいてきた。最初は土地の民謡を歌っていると思っていたが、よく聞くと日本語だ。「きょうも学校に行けるのも兵隊さんのおかげです。兵隊さんよ、ありがとう」。大戦中は小学生で日本の軍人に教え込まれたと思われ、久しぶりに島に日本人が来たという噂が広がりこの歌を歌ったに違いない。筆者を見る目は明らかに敵意に満ち、じっと睨んでいた。小さな島でトラブルを起こしたくない。そう思ってそそくさと機材を片付け島から離れた。

観光と金融の国、シンガポールは近代的できらびやかだ。高層ビルを縫うように行き交う人、造形美が美しい公園。どこを見ても大戦の痕跡は見当たらない。南端にある観光地、セントーサ島の博物館を家族と訪れた。博物館では山下泰文大将がイギリス軍のパーシバル中将と降伏交渉を行う様子を等身大のろう人形を使って再現されていた。厳しい表情の山下将軍らがリアルに描かれていて同行した子供も怖がったが、筆者も突然反日感情に触れ戸惑いを感じた。

86年、フィリピンのマルコス独裁政権が倒れた。フィリピン革命はテレビを通じてリアルタイムで海外に報じられ、国際世論の反発の中20年に渡る独裁政権は倒れた。アキノ政権は外国メディアをたたえ、パーティを開き記者一人一人にメダルを贈った。筆者もその時のメダルを今でも大切に保管している。

取材中、何度か危険な目にあったが、優秀な現地の助手が身を挺して救ってくれた。明るい性格で取材陣の人気者になり、皆でカンパして東京に招待した。その助手の案内でスペイン時代の砦イントラムロスを見学した時のことだ。突然顔が曇り「この砦の牢に日本軍はフィリピン人を閉じ込め800人が死んだ」と語った。常に明るい助手が一瞬見せた険しい表情だった。

 
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