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第479回 地球温暖化が進行、「極端気象に備える覚悟を」 伊藤努

第479回 地球温暖化が進行、「極端気象に備える覚悟を」 伊藤努

第479回 地球温暖化が進行、「極端気象に備える覚悟を」

自由な学風で知られる京都大学の理学部を卒業後、政府出先機関の気象庁に入り、実務と研究に携わった後にアカデミズムに転じた気象学者の講演を聞く機会があった。講演の題目は「極端気象・異常気象と地球温暖化」と身近なテーマでありながら、一見難しそうな問題でもあり、講演の当日は「内容を理解できるかな」と一抹の不安と興味を持ちながら都心にある会場に向かったのだが、関西人の気さくさとユーモアを持ち合わせている研究者の話に、会場からは何度も笑い声が起きた。今回は、筆者の専門外のテーマながら、近年、異常気象が多発している日本の国民として必要な心構えを説いていた東京大学大気海洋研究所の木本昌秀教授の貴重な講演のさわりをご紹介したい。

講演の演題にある「異常気象」は日ごろよく耳にする用語、言葉だが、木本教授が機会あるごとに提唱している「極端気象」なる日本語はまだ耳慣れないのではないか。教授によれば、「異常気象」とは「その地点、季節としては出現度数が小さく、平常的には現れない現象または状態を指し、統計的には30年に1回以下の出現率の現象」と気象庁では定義しているという。これに対して、「極端気象」は、ゲリラ豪雨やスーパー台風、竜巻、爆弾低気圧など、近年、日本の各地で大きな災害を引き起こした激しい気象現象の総称で、地球温暖化の影響を背景にした気候変動が絡んでいるそうだ。

木本教授が所属する東京大の研究所の名称からも分かるように、教授は国際社会あるいは人類にとって喫緊の課題となっている地球温暖化に関する研究もご専門だが、今回の講演では、さまざまな気象統計や温室効果ガスの排出予測などを駆使し、スーパーコンピューターで算出した地球温暖化の進行予測グラフを引用して、「地球温暖化は現在進行中であり、温暖化に伴い、極端現象が増加する」と断言していた。「これまでは50年あるいは100年に一度程度の極めてまれにしか起きないはずの極端気象が増加するということは、気温はますます高く、豪雨は激しく、台風も強大になることを覚悟しておく必要がある」というのが専門家の見立てだ。

70億の人類が活動する地球の温暖化を直ちに止めることは事実上不可能であっても、温暖化を抑止することは国際社会の取り組みによっては可能だ。現在、地球温暖化を抑止する国際的取り決め「パリ協定」に基づく取り組みが本格化するが、木本教授は温暖化抑止には「気候を混乱させる廃棄物を排出しないエネルギー源の新規創出、再生可能エネルギー電源の利用拡大によるゼロエミッションが必要になるというのが科学的真実だ」と訴えた。パリ協定からの離脱を決めたトランプ米大統領がこの科学的真実に背を向けているのは周知の事実だ。

このように木本教授の講演のさわりを紹介していくと、非常に真面目で、深刻な見通しばかりなので、会場から笑い声が起きることと矛盾するのだが、会場の笑いの場面を一つだけ再現しておこう。

「ゼロエミッションの実現には、ビジネス上のリスクが付きまとうイノベーション(画期的な技術革新)が欠かせませんが、この会場に経営者の方がおられたら、ぜひチャレンジしていただきたい。私もイノベーションが成功すると分かっていれば、研究者を辞めて、ビジネスの世界に飛び込むのですが・・・(笑い)」

木本教授は講演の締めくくりで、また真面目な気象研究者の顔に戻り、「今後は温暖化への適応が本格化するため、リスクマネジメント(危機管理)、防災対策がますます肝要になり、これまでの経験に頼らない、最後は自分で判断することが重要になってくる」と力説した。「最後は自分で判断する」という対応は、2011年3月の東日本大震災の際の大津波災害の教訓としても語られている合言葉だ。

気象庁OBでもある木本教授は、古巣の気象庁の気象予測の能力の高さもPRしながら、「よりよい予測は命を救う」と語り、地球温暖化の影響の可能性がある極端気象に伴う災害を少しでも軽減すべく、専門家の立場から研究と啓蒙活動を行っていくことに対して理解と協力を呼び掛けていた。
 

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