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第14回 乾季に見られる蝶々の絨毯  直井謙二

第14回 乾季に見られる蝶々の絨毯  直井謙二

第14回 乾季に見られる蝶々の絨毯

欧米諸国などの民主化要求に応じようとしないミャンマーは国際社会から経済制裁を受けており、他のアジア諸国のように開発が進んでいない。このため、手つかずの自然が豊富で、野生の蝶々の生息地になっている。とはいっても、ミャンマー軍事政権は外国人記者の入国を厳しく制限しているため、蝶々の取材は難しい。

ミャンマー国境に近いタイ中部のプラチアップキリカン県には、ミャンマー側から数多くの蝶々が国境を越えて飛んでくる。3月から5月乾季の終わりは蝶々にとっては命懸けの季節になる。ほとんど雨は降らず、大地が灼熱の太陽に照らされ気温は40度を超える。取材中にペットボトルの水を何本も飲み干した。蝶々を探して小高い丘を登ったり、降りたりを繰り返すが、人の気配はない。暑さと疲労で「ボー」としてきた。暑さを避けるため、日陰を求めて切り通しを歩いていると、突然、蝶々の隊列に遭遇した。無数の黄色の蝶々が低い方へと飛んでいく。暑さでもうろうとした目で見ると、まるで「天の川」のように見える。

蝶々の隊列について行くと、小さな小川に出た。小川といっても、乾季でほとんど干上がっている。水の流れていない小川の岸におびただしい数の蝶々が舞い降りている。色とりどりの蝶々が織り成す光景はさながら蝶々の絨毯だ。(写真)


蝶々は川岸にわずかに残る水分を必死になって吸い上げている。よく見ると、蝶々同士が押し合い、へしあいをしている。近づいてみたが、一匹も逃げようとしない。指で蝶々にそっと触れてみた。他の蝶々が自分の水場を荒らしに来たと思ったのか、足を踏ん張って押し返してくる。ペットボトルの水を川岸からかなり離れたところにまいてみた。5分とたたないうちに蝶々の塊ができた。

無尽蔵にいるように見える蝶々だが、タイ側の開発でその数は激減しているという。そこで10年ほど前から、タイ政府は蝶々の保護に乗り出した。まずこの地域に広がるパイナップルやレモンなどの果樹園に農薬の散布を減らすよう呼び掛けた。また、文部省のモンクット王記念研究所は果樹園を訪ね、蝶々の卵や幼虫を採取し、巨大な飼育施設で保護している。農民は農薬も節約できることから、積極的に研究所に協力している。

研究所では毎日のように、ダブル・ブラデット・ブルークローやコモン・エミグラントなど色とりどりの蝶々が羽化している。研究所では蝶々の数も増え、蝶々を自然に帰す計画も進んでいる。高度経済成長をひた走ってきたタイにも、自然保護の動きが始まっている。

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