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第584回 人口急増と近代化でカースト制度が消えゆくインド 直井謙二

第584回 人口急増と近代化でカースト制度が消えゆくインド 直井謙二

第584回 人口急増と近代化でカースト制度が消えゆくインド

インドと言えばヒンズー教の下で形成されたカースト制度が頭に浮かぶ。独立後、政治的にはインドは平等である。

各カーストの代表が国会議員や政府を構成する。このため政党数が多いという特徴があり政権が安定しない悩みもある。閣僚の一人がカーストでは身分が低いということから閣議など公の席では平等に扱われるけれども私的なパーティなどでは同席が許されないなどという記事を読んだことがある。

インドの取材では言葉の問題もありガイドは欠かせない。そのガイドと親しくなったところで、日本人の筆者はカーストでいえばどこに入るのかと聞くと困った表情を浮かべていたのを思い出す。ガイドは見ず知らずの同胞でも姿からカーストの身分がだいたい分かるし、名前が分かれば完全にわかると話していたが、日本人には皆目見当がつかないという。

1998年の核実験を除けばカーストの低い庶民の暮らしの取材が多かった。炎天下のレンガ作りもその一つだが、レンガ作りは過酷な労働だ。(写真)また、弁当をムンバイ発の満員電車に乗せ合理的なシステムで配達する弁当運搬業ドビワラについてはすでに書いた。(アジアの今昔・未来第72回「すそ野が広いインドのIT」)ドアも閉められないラッシュは日本の比ではない。

映像的に表現しようとカメラマンが先に乗り込み、もみくちゃになりながら乗車しようとする筆者を車内から撮影することにした。だがあまりの混雑ぶりに乗り損なってNGを出し、撮り直すことになり、カメラマンに迷惑をかけてしまった。

弁当運搬業の取材から20年、ムンバイ郊外に赴任し3年になる息子の話によればムンバイ近郊の列車のラッシュはさらに悪化し殺人的だという。インド人口の推移をみると90年代末の9億5,000万人から13億3,000万人に急増している。都市の過密化も考慮すれば息子の話もうなずける。

人口の流動も加わりカーストの違う人との肌の接触を避けると言った風習を守ることは都市部ではもはや不可能になってきている。生産性を高め高度経済成長を維持しようとすればカーストの高い人が低い上司に仕えることもある。政治や政府内ではとっくに始まったカースト制度の崩壊が企業や一般社会にも浸透し始めているようだ。

政治的に平等で移住も自由なインドでは社会的な階級崩壊が近いと思われる。ただインドは長い間イギリスの植民地支配を受けていた影響なのか、上からの指示待ちの風習が抜けていない。それは、潜在的に持つ高い能力を発揮する壁になっている様だ。

《アジアの今昔・未来 直井謙二》前回
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