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第465回 中国の「脱貧困」政策を貴州省に見る(その1) 伊藤努

第465回 中国の「脱貧困」政策を貴州省に見る(その1) 伊藤努

第465回 中国の「脱貧困」政策を貴州省に見る(その1)

今年もまた、中日友好協会の日本人ジャーナリスト訪中招請プログラムに参加し、8月上旬に駆け足で中国を回ってきた。今回の中国現地取材では、ほぼ毎回開催されている同プログラムの恒例行事である北京での中国社会科学院日本研究所の政治・安全保障、経済、社会など各分野専門家との意見交換などに臨み、主として日中関係の現状と今後の展望について中国側の見解を聴取した。また、やはりこれも同プログラムに毎回組み込まれている地方視察として今回は、習近平現指導部が重要課題の一つに掲げる「脱貧困」(貧富および地方・都市間の格差解消)の取り組みの一端を見聞するため、経済発展が著しい近年の中国でも開発が遅れている省として名前が挙げられる西南部の貴州省における各種プロジェクトを駆け足で見て回った。本欄では、わが国ではあまり知られていない貴州省での見聞を中心に5回にわたって紹介していきたい。

貴州省は面積が日本の半分近い17万6000平方キロ、人口は3580万人(2017年末統計)で、中国有力省である四川、重慶(直轄市)、広東などと接しており、北京から空路3時間の距離ながら、近隣の主要都市とは空路、高速鉄道、高速道路でもつながっている。ここ10年ほどの交通・通信の急速な発達に伴い、北京や上海などから離れた遠隔地という経済発展上の距離的ハンデからは脱却しつつあるように思われる。

北京での中国側有識者との意見交換を終えた後、中国で最も貧しい省の一つといわれる貴州省に空路向かった。フライト時間は約3時間だったが、貴州省の省都・貴陽は標高1000メートル超の丘陵地帯にあり、省の大半がカルスト地形で、緑が多い山並みが連なる自然豊かな地域であることが中国南方航空機の車窓からもうかがえた。高原の地形で標高が比較的高いため、年間を通じて気温は低めで、山が多く、魅力ある景観も少なくないことから、避暑地として有名で、観光振興は貴州省が力を入れる分野だ。

貴州省での訪中団一行の取材テーマは、習近平指導部が国内での最優先課題の一つに掲げている「脱貧困」(貧富の格差是正)で、日程の制約もあり、同省で取り組みが行われている三つの関連プロジェクトを視察した。具体的には、▽省都の貴陽から南東170キロにある丹塞県(貴州東南ミャオ族・トン族自治州)で昨年7月に開園した地元少数民族の伝統・文化を紹介し展示するテーマパークの営業を通じた貧困対策プロジェクト▽同じ丹塞県にある農村部でのブルーベリー栽培模範拠点事業▽貴陽にある貴州省ビッグデータ総合試験区展示センターの3カ所を2日かけて駆け足で回るという強行日程である。

規模の大小や内容も全く異なる上記の3案件の貧困対策プロジェクトの特徴をあえて挙げるとすれば、少数民族ミャオ族とトン族の伝統・文化などを紹介するテーマパークの事業主体は、中国で有数の娯楽事業展開企業「ワンダ・グループ(大連万達集団)」が担っており、広大な敷地に多数の飲食店や地元特産品のアンテナショップを出展させるとともに、闘牛や闘鶏をはじめとする地元少数民族由来の入場者向けアトラクションが随時開催されている。地元観光業の目玉ともなるテーマパークの開業によって、園内にある店の従業員になるなどして雇用が新たに創出されるほか、来場者が落とすお金は出店する地元業者にとっての収入源になるという形で、貧しい村の貧困脱却を図ろうという仕掛けだ。次回は中国の老舗名酒メーカーが絡む脱貧困の支援事業を紹介する。(この項続く)



ワンダランドと呼ばれるテーマパークの風景(川村範行氏撮影)

 

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