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第467回 中国名酒「茅台酒」メーカーの事業多角化の狙い(その2) 伊藤努

第467回 中国名酒「茅台酒」メーカーの事業多角化の狙い(その2) 伊藤努

第467回 中国名酒「茅台酒」メーカーの事業多角化の狙い(その2)

中国有数の不動産企業ワンダ・グループ(大連万達集団)が貴州省の貧村で運営する少数民族紹介のテーマパークから車で15分ほどの所にある老八塞地区に、同省に本社を置く高級白酒メーカー「貴州茅台(マオタイ)集団」のグループ企業が試験栽培を行っている農園がある。カルスト地形で小さな山や丘が多いこの地域の農村地帯では代々、段々畑を作るなどして稲作やトウモロコシ、カボチャなどの野菜栽培が細々と行われてきたが、こうした農産品を出荷しても零細農家の収入増にはなかなかつながらない。このため、丹塞県の共産党責任者らが上部行政組織の貴州省当局などとも相談しながら、貧しい農家の収入増につながるスイカなどの換金作物の転作を勧めてきたが、そうした中で出てきたのが、地元農民には全く馴染みのなかったブルーベリーの栽培計画事業だった。試験栽培の開始から日が浅い現在はまだ、試行錯誤の研究段階だが、いずれは有機農法によるブルーベリー栽培を希望する地元農家に委託し、耕作地と収穫量を増やしていく計画だ。

この試験栽培計画への参加に手を挙げたのが、高級酒で知られるアルコール度数の高い茅台酒の売り上げ低下もあって事業の多角化を進めていた茅台集団だった。飲料食品メーカーとしてさまざまなノウハウを持つ同社としても、ブルーベリーの試験栽培が軌道に乗り、この地方の特産品として販路を確保できれば、会社の業績にも寄与する。

最初に訪れた丹塞県のテーマパークでは、茅台集団も主力商品の茅台酒をはじめ自社製品を店頭販売するアンテナショップを出している。店の販売員は茅台酒をベースにしてブルーベリーなどの果物ジュースで割ったアルコール度数の低いサワー系飲料を客たちに盛んに勧めていたが、同社がこの地でブルーベリーの試験栽培事業に乗り出した狙いや理由の一端も、2カ所の貧困対策プロジェクトを視察したことでよく分かった。

貴州省の省都・貴陽から高速道路を乗り継いで3時間ほどかかる丹塞県でこの日、2カ所の視察をようやく終え、貴陽に戻るバスの中で、一行のメンバー同士で、二つの貧困対策事業にいずれも中国国内あるいは貴州省内で名前のよく知られた有力企業が関与している理由や背景について、話題に上った。北京特派員経験者で、中国の大企業と地元当局の高級幹部らとの協力や連携、癒着といったケースを多数、報道などで目にしてきた事情通のM記者は「別のテーマパーク事業やホテル事業の売却でメディアをにぎわせてきたワンダ・グループが丹塞県での貧困対策事業に善意の気持ちだけで始めたとは到底思えないので、裏には何かさまざまなビジネス上の思惑、仕掛けがあるのかもしれない」と感想を語っていたのが印象に残る。もとより、そうした臆測などを裏付ける事実関係を、現地を短時間視察しただけの者には知る由はないが、中国の関係当局が何らかの形で関与した地方での貧困対策プロジェクトに有力な民間企業が絡んでいることだけは分かった。(この項続く) 



老八塞地区に、同省に本社を置く高級白酒メーカー「貴州茅台(マオタイ)集団」のグループ企業が試験栽培を行っている農園

 

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