1. HOME
  2. 記事・コラム一覧
  3. コラム
  4. 安倍外交と「自由で開かれたインド太平洋構想」(上) 戸張東夫

記事・コラム一覧

安倍外交と「自由で開かれたインド太平洋構想」(上) 戸張東夫

安倍外交と「自由で開かれたインド太平洋構想」(上) 戸張東夫

<安倍外交と「自由で開かれたインド太平洋構想」(上)>

我が国は中国大陸の太平洋沿岸近くに位置することから、ちょうど太平洋のかなたの米国と中国という二つの超大国に挟まれている。我が国のこの地政学的現実が我が国の外交政策や外交に与える影響は計り知れない。我が国が独自の外交を展開するに当たってはつねに両超大国を気にしなければならないばかりでなく、両超大国の疑惑や不安を招くことのないよう両国間でバランスを維持することが求められるのである。我が国の外交政策を語るときに「米国べったり」とか「中国一辺倒」という言い方がしばしば使われるのはこのためである。たとえば安倍前政権の外交政策にはバランス感覚が欠けていると次のように批判された。

「安倍氏が一貫して内外に印象づけたのは、米国に寄り添う姿である。集団的自衛権の一部行使に道を開いた安全保障法制を強引に成立させたのも、日米同盟の強化のためとされる。」「その内実は、日本が米国製の武器を大量買いする一方、貿易交渉では不利を強いられる構図だった。」(『朝日新聞』2020年9月3日社説)

安倍政権の外交政策に対する同様の批判的意見は決して少なくない。「米中両超大国が冷戦状態といわれるほど悪化しているときに、米国一辺倒では中国を敵に回すことになってしまう」「もう少し米中両国外交のバランスを考えるべきだ」などその多くは我が国が米中両超大国の中間に位置するという地政学的現実を反映したものであった。だが米国寄りか、中国寄りかで外交を評価するわけにはいくまい。むしろ国民の安全や生活を守り、国民の生活を維持するといった国益を最大限実現できるかどうかで評価するというのが筋であろう。

<安倍政権が突然の幕引き>

(2020年)8月末突然幕を閉じた安倍政権の外交政策を振り返りながら筆者はいつの間にかこんなことを考えていた。我が国では外交政策を論じたり、評価したりするときに「米国寄り」か、「中国寄り」かがしばしば重要な要素となり、時にはこの違いが外交政策の評価を決定づけるというケースも無きにしもあらずだからである。

それにしても歴代最長の安倍政権の幕引きは突然だった。安倍前首相が8月末首相官邸で開かれた記者会見で持病の潰瘍性大腸炎が再発したという健康上の理由で辞任すると述べたのである。筆者はテレビで記者会見の中継放送を観ていたが、予想もしていなかった辞任表明にびっくりした。潰瘍性大腸炎とはどのような病気なのか知らないが前首相は6月と8月にそれぞれ一回東京の病院で検査を受けたという。報道によると8月の検査では約7時間半病院ですごしたというから病状がかなり悪化していたのだろう。安倍氏は2012年12月第2次内閣発足から(2020)8月24日で連続在職日数が2822日、7年9か月となり史上最長の政権となったが、自民党総裁の任期満了まではまだ一年ほど残っており、任期途中での辞任となった。心残りだったに違いない。安倍さんが第2次内閣発足以後訪れたのは延べ172の国と地域だったという。「世界のほぼどこを見渡しても、足跡を残してきたといえる」などという米国の知日派もいる。

トランプ米大統領との親密な関係に示された各国首脳との良好な関係を武器に安倍さんが展開した首脳外交には定評がある。後継首相の菅義偉氏は安倍さんの外交・安全保障政策を継承し、引き続き推進するといっているが、それでも安倍さんのようなスマートな首脳外交は「私にはできない。自分なりのスタイルでいく」といち早く兜を脱いでしまったくらいである。我が国の国内では国際的に評価の高い安倍外交について語る暇もなく、外交経験の少ない菅首相に安倍さんのような成果を上げることができるかどうかに関心が移ってしまったようである。ここではマスコミに掲載された海外の識者の安倍外交に対する評価をいくつか紹介してみたい。



《チャイナエ クスペリエンス 戸張東夫》前回  
《チャイナエ クスペリエンス 戸張東夫》次回
《チャイナエ クスペリエンス 戸張東夫》の記事一覧

タグ

全部見る