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台北の思い出 ― 片思いテロ…?

台北の思い出 ― 片思いテロ…?

台北の街を歩くと、至る所でジューススタンドを目にする。誰もが知るタピオカミルクティーはもちろん、新鮮な果物や豆類や各種の茶を使ったメニューがずらりと並ぶ。注文すると、目の前で店員さんが手早くドリンクを作り、700mlはあろうかという大きなカップに注ぎ、機械を使ってビニールの蓋で密封してくれる。直径1cmほどもある太いストローで蓋に勢いよく穴を開けて飲めば、うだる暑さも吹き飛ばしてくれる。

 

私が台北に留学していたころ、寮の2人部屋のルームメイトは、インド美人のような大きな目のKちゃんだった。Kちゃんは男子学生に大人気で、毎朝のように私たちの部屋には、「Kちゃん、教室までかばんをお持ちします」とか「Kちゃん、僕の自転車の後ろに乗りませんか」という男子学生が次々に訪ねて来た。

 

ある夏の週末の夜、私とKちゃんは次週に迫った試験の勉強に追われていた。そこへ、トントン、と来訪者。ドアを開けると、Kちゃんの知り合いの男子学生が「遅くまで勉強大変だね。これ飲んで頑張って。ルームメイトさんの分も」と、ジューススタンドで買ったとおぼしき大きなパパイヤミルクのカップを2つ差し出した。「ありがとう。…ごめんね、今、来週の試験勉強で忙しくて」と、遅い時間の来訪者に少し迷惑そうな様子のKちゃん。彼は「じゃ、頑張ってね!」とだけ言って立ち去った。

 

その夜は2人ともいつになく集中して勉強し、消灯したのは1時半を過ぎていた。

 

次の朝、ぐっすり眠っていた私たちは「パンッ!」という乾いた爆発音に跳び起きた。「なになに!?」と慌ててベッドからはい出した私の目の前で2発目の「パンッ!」が鳴り響き、机の上に置かれた大きなカップからクリーム色の液体が噴水のように垂直にのぼってそこらじゅうにあふれ出した。あっけにとられる私の前で、液体はまるで手品のようにとめどなくカップから湧き出してくる。

 

気が付けばもう日はずいぶん高く上がっていて、部屋の中も蒸し暑い。昨晩飲まずに置きっ放しにしたパパイヤミルクがすっかり発酵して、蓋を押し破って爆発したのだ。事件かと一瞬緊張した私とKちゃんは、顔を見合わせて笑い出した。その後私たちが机と部屋の掃除に追われたのは言うまでもない。人の好意を無にしてはいけないということ、そして、食べ物を(もちろん飲み物も!)粗末にしてはいけないということを、改めて思い知った夏の日だった。

 

(東亜学院中国語学校講師 K.Y.先生、2018年1月4日初掲)

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