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中国はCPI、PPIが下降トレンド、輸出入も振るわず、金利下げでデフレスパイラルに(上) 日暮高則

中国はCPI、PPIが下降トレンド、輸出入も振るわず、金利下げでデフレスパイラルに(上) 日暮高則

中国はCPI、PPIが下降トレンド、輸出入も振るわず、金利下げでデフレスパイラルに(上)

2023年も前半が終わった。中国経済は昨年、ゼロコロナ政策などで低迷を続けたが、今年はどうなったのか。コロナ禍の“制約”がなくなった分、その反発が期待されたが、今年1-5月の購買担当者景気指数(PMI)は景況拡大・悪化の臨界点以下で、芳しくない。6月の輸出は前年同期比で12%以上の減、輸入も7%近い減で、昨年の低迷を盛り返していない。消費者、卸売物価指数は横ばいから下降トレンド。加えて、西側先進国企業は、対中投資の抑制、進出工場の閉鎖などを俎上に載せている上、ウクライナ戦争で中国がロシアに加担している様子が見られるため、半導体などの戦略物資の提供を控えており、総体的にデカップリング(経済連携の停止)への動きに出ている。この結果、中国国内の雇用状況は極端に悪化し、若年労働者の5人に1人は職がないという状態で、最早デフレスパイラルに入っていることは疑いない。

<国家統計局の信頼性>
米メディア「ラジオ・フリーアジア(RFA)」によると、米国の著名なシンクタンクである「戦略国際問題研究所(CSIS)」が7月5日に開いたシンポジウムで面白い話が登場した。それは、中国の経済データは政治目的を達成するために調整されるもので、この国で公表されるデータは発展途上国の数字よりさらに信頼できないものであるとの話。CSIS顧問のスコット・ケネディー氏は「中国の経済データは一般的に具体的な経済状況を反映したものではない。成長率の数字は政治的な意味を持っており、そのために国家統計局が実際のデータを出すことはできない。これが海外の学者が中国のデータを疑う理由である。さらに、地方政府が恒常的に偽りのデータを発表しているため、各省のデータを総計すると、中国全体のデータと著しい齟齬を生じている」と語った。

ケネディー氏は、「自分が会った多くの学者は中国の公式発表数字を疑っていた。GDPの規模、伸び率とも信用に足らないとの見方だ。特に、コロナ蔓延が武漢で明らかになった2020年から、中国政府は具体的なデータを隠したがるようになった。2021年、22年に出されたデータは嘘ばかり。投資や不動産に関する統計ではそれが顕著だ」と厳しい。米投資顧問会社「Jキャピタル・リサーチ」の共同創業者、アン・スティーブンソン・ヤン女史も「中国統計局の数字は政治目的のために調整される。公表される数字は実際を反映したものでなく、期待値を基に作られる。だから、調整されて期待値に近いものに“修正 ”される」「中国経済データの問題点は郷村経済を無視していることだ。郷村の就業率、消費量、家庭の資産などはカウントされていない」と指摘している。

国家統計局データの信頼性については、これまでも海外から再三疑問の声が上がっていた。それでも他にベースにする数字がない限り、同機関のデータを基に中国の経済動向を見るしかないのが辛いところ。同局によれば、GDP成長率は、2022年第1四半期が4.8%増と高めだったが、第2は0.4%増、第3は3.9%増、第4は2.9%増と下がり、通年で3%の増という結果となった。第2四半期はまさに上海、深圳などでゼロコロナ統制が行われている時期で、工場の操業が停止し、街中に人が出られないため、消費は落ち込んだ。この時期に前年同期比で成長率がプラスだったことはにわかに信じられない。

今年の第1四半期の経済成長率は4.5%増、7月17日に公表された第2四半期の成長率は6.3%増であった。今年上半期(1-6月)で見ると、GDPは59兆元余で、成長率は前年同期比で5.5%増だった。ところで、今年第2四半期の「6.3%」はどう見るかだ。昨年のこの時期はゼロコロナで経済活動がほぼ停滞していた状態で、それとの比較であれば、大幅増になるのは当然だ。市場の予測では、7.3%程度になるのではないかという見方だった。それに比べると、国家統計局の公表数字は“期待値”に沿わない、かなり低めになった。中央政府としては、いかに“修正”を施したとしても、中国経済が完全復調にあるとの数字は出しにくかったのであろうか。

<デフレスパイラル>
「中国にデフレ懸念」-という見出しの記事が日経新聞の7月11日紙面に登場した。「デフレ懸念」というより最早デフレスパイラルに陥っているのではなかろうか。消費者物価指数(CPI)は、今年4月が前年同月比で0.1%増、5月が0.2%増、6月はとうとう増減なしの横ばいとなった。2年4カ月ぶりに上昇が止まった。CPIのうち家計の購買力を示す「食品とエネルギーを除くコアの指数」は前年同月比でわずかに0.4%の増。自動車とバイク、家具類、スマホなどの通信機器が大幅値下がりしている。背景にはマンション販売の不振がある。石油類もロシアからの安値購入で、価格が10%以上の大幅下落をしている。中国人の食卓で重要な食材である豚肉の供給量は、昨年12月と比べて今年5月に大幅増加するものの、価格は3割減となっているという。

生産者が出荷した製品や原材料などの販売価格動向を見る卸売(生産者)物価指数(PPI)は、前年同月比で1月が0.8%、2月が1.4%、3月が2.5%、4月が3.6%、5月が4.6%の減。6月はさらに5.4%減と完全に下降トレンドに入った。製造企業の実務担当者に景況感を聴く購買担当者景気指数(PMI)が今年1-3月では、景況拡大・悪化の分かれ目になる臨界点の50以上となっていたが、4月に49.2、5月に48.8、6月に49.0と臨界点以下の暗い見方となった。サービス部門の購買担当者によるPMIも、5月の57.1から6月は53.9と低下してきている。中国のGDPの3割を占めるという不動産業の上半期の投資額が前年同期比で7.9%の減。景気動向を示すどの指数からも明るい見通しは出てこない。

従来、中国の景気を支えてきたのは、国内の不動産と対外輸出の好調さだった。ところが、一昨年来の不動産不況とともに輸出にも影が差した。中国税関総署が6月7日に発表した今年5月の貿易統計によると、輸出額は前年同月比7.5%減の2835億ドル、輸入額は同4.5%減の2177億ドルと、ともにマイナスとなった。輸出額が減少したのは3カ月ぶり。エコノミストの事前予想では、輸出額の落ち込みは0.4%程度ではなかろうかと見られていたが、実際はこれをはるかに上回る大幅な低下だった。自動車の輸出額は倍増したが、スマートフォンの輸出額が3割弱減ったほか、パソコンや衣料品や鋼材など幅広い品目で減少した。

輸入額も2023年1-3月期に前年同月比で5.2%減、4月は7.8%減、5月は4.5%減。
輸出から輸入を引いた貿易黒字も同16%減少した。今年前半の輸出品の中で大幅な伸びを示した品目もあった。それは鉄鋼。今年1-5月の輸出量は前年同期比41%の増で、2016年以来の多さとなった。なぜ鉄鋼の輸出が多いかと言えば、国内の鉄鋼産業の生産量は変わらないのに、製造業や不動産の不振によって鋼材は不要となり、大幅に受給バランスが崩れたからだ。鋼材輸出量は多いが、価格は1トン当たり922米ドルとここ3年来最低と言われるほどの安値であるため、貿易収入額には貢献していない。

税関総署が7月13日に発表した今年上半期の輸出入総額を見ると、20兆元を突破し、前年同期比で2.1%増。輸出は11兆4600億元で3.7%の増だが、輸入は8兆6400億元で0.1%の減だ。さらに、明らかになった6月単月の輸出額は前年同期比で12.4%減、輸入は6.8%の減。貿易黒字額は706億2000万ドルだったが、下降トレンドにあることに変わりない。同総署の呂大良スポークスマンは「現在、我が国の対外貿易は総体的には安定した状態にある。6月は、前年同期比で見れば、回復が遅い感じがあるが、前月と比べると、一歩一歩前進している様子が見られる」と強気な発言に終始した。だが、ロイター通信によれば、6月の輸出額コロナ禍が始まって以来最大の下げ幅と言われる。

今年1-5月、外資系企業の利潤が前年同期比13.6%減、民間企業が同21.3%減、国有企業が同17.7%減。民間企業の業績悪化は倒産、破産を引き起こす。外資系企業の利潤悪化は、中国国内に工場や販売拠点を置くことへの疑問が生じ、少なくとも工場については労賃の安い他の発展途上国へ移転させる動きを促進する。工場閉鎖となれば、大量解雇へとつながり、全体的な雇用状況は一段と悪くなる。国家統計局によれば、4月-6月の失業率は5.2%だった。31大都市の調査失業率は4月が6.7%、5月が6.9%。だが、16-24歳の若年層失業率を見ると、3月に19.6%から初めて20%台を突破し、4月に20.4%、5月に20.8%、6月には21.3%と過去最悪となった。

デフレ状態になれば、景気を刺激するため、必然的に金利の引き下げが行われるが、中国人民銀行(中央銀行)は今年6月20日に最優遇貸出金利(LPR、ローンプライムレート)の5年物も、1年物も0.10ポイント引き下げて、それぞれ4.20%、3.55%とした。政策金利の引き下げ傾向は2019年から始まっており、昨年は2月に続いて8月も操作しており、8月に1年物のLPRをそれまでの3.70%から0.05ポイント引き下げられ、3.65%となっていた。一方、米国はインフレ抑制のため、ここ数年、政策金利を小刻みに引き上げており、西側諸国もそれに追随している。この結果、米中間との金利差が一段と進んで資本移動が起き、人民元安となっている。

庶民はデフレ時に将来を不安視し、消費を控える。その半面、低金利にもかかわらず貯蓄額は増やす傾向にある。MUFG丸山健太研究員の経済リポートによれば、コロナ禍の時(2020-22年)の家計預金額は、コロナ禍がなかった時と比較して9兆3000億元の過剰貯蓄が生じたと推計されるとしている。これは2022年のGDPの7.6%に相当する規模。過剰貯蓄の原因は、不動産という資産に疑問を持った富裕層がその方面への投資を控えたことにあるという。で、コロナ禍後はどうか。人民銀行の調べによると、今年第1四半期に消費よりも貯蓄に所得を回すと答えた人の割合が全体の58%だった。コロナ禍最中の前期からは3.8ポイント下がったものの、なお高水準。実際に、第1四半期の家計の新規貯蓄額は9兆9000億元に達した。これは、昨年通期の17兆8000億元の半分以上である。庶民はコロナ明けでも将来を不安視している証である。


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