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未来の不動産の発展モデルという「14号文件」、過去の問題処理に触れない物足りなさも(上) 日暮高則

未来の不動産の発展モデルという「14号文件」、過去の問題処理に触れない物足りなさも(上) 日暮高則

未来の不動産の発展モデルという「14号文件」、過去の問題処理に触れない物足りなさも(上)

中国は10月末、「計画的に居住を保障する家屋を建設することについての指導意見」と題する通称「14号文件」を発表し、今後の新しい住宅産業の発展モデルを示した。現在の住宅は異常な不動産バブルで高値となり、一般庶民は手が届かない状態にある。そのために、住宅建設を実際に「住むための物件(保障性住宅)」と「投機的売買も可能な高級物件(商品住宅)」に分類し、保障性住宅はサラリーマンが生涯賃金で返済できる程度の価格に抑えることを求めている。一方、商品住宅は豪華な作りにして高い価格を維持し、それによって不動産市場の暴落を食い止める狙いがある。ただ、中国の住宅はすでに人口の2倍、3倍の数が住めるほどに建てられており、14号文件は既存物件、あるいは建築途上で放置された物件いわゆる「爛尾楼」をどうするかには触れていない。現実には、大型デベロッパー恒大集団のほか、それに次ぐ碧桂園(カントリーガーデン)も債務返済に苦慮しており、不動産問題の解決はそれほど容易ではない。

14号文件の中身>
14号文件は、実は8月25日の国務院常務会議で決定し、その後に各地方政府に通達されている。一部の地方省、市の反応を探ったと見られ、その後に公にされた。中国のメディアによれば、14号文件には2つの目標があって、一つ目は「保障性住宅」の建設と供給を拡大だ。現在の商品住宅価格が高すぎて、手が出せない大多数の一般給与所得者に実際に居住するための家屋を提供すること。もう一つは取引も可能な、高級感のある物件の建設。これらは従来の商品住宅の延長で、高値維持を図り、流通性を保つ。言葉を変えれば、富裕層が2軒目、3軒目と買って投機の対象にしても構わないという意味が込められている。

住宅が高値になるのは重要都市、大都市なので、相対的に住宅価格がそれほど高くない地方の3、4線級都市では「保障性住宅」と「商品住宅」の区別を付きにくい。そのため、2つのカテゴリーに分けるのは当面、人口300万人以上の都市が対象となる。2020年の人口センサスによれば、300万人を超える都市は35カ所。上海、北京、深圳、広州の一線級都市のほか、重慶、成都、天津、武漢、東莞、西安、杭州、仏山、南京、瀋陽、青島、済南、長沙、ハルビン、鄭州、昆明、大連、南寧、石家庄、アモイ、太原、蘇州、貴陽、合肥、ウルムチ、寧波、無錫、福州、長春、南昌、常州の31都市で、条件が整った都市から順次“住宅建設改革”が進められていく。

情報サイト「経済観察網」によれば、保障性住宅の建設計画、居住対象者の範囲、管理に関しては各地方政府に委ねるとしている。ただ、同住宅に対する管理は厳しくし、いかなる形であれ商品住宅に転換したり、売買市場に出したりすることはできない。もちろん、住むための住宅であるから、長期に空き家にしておくことや個々人間の転売も許されない。居住者が仕事を辞め、職場を離れて住宅が不必要になったら、各地方政府が買い上げるという規定も設けられるという。不動産業者が従来の商品住宅を保障性住宅に替えることは可能。ただ、この場合は、住宅の価格は一般サラリーマンの所得に見合った額に引き下げられることは避けられない。

半面、商品住宅については、市場化を一段と強めていく。従来一線級都市、2線級都市の一部で実施されていた住宅価格抑制政策は廃止される。例えば、売買価格の制限、又貸し、販売などの制限は取り止めとなる。地方政府がデベロッパーに売り出す土地使用権の売買も、これまで住宅価格の高騰につながるとして金額が抑えられていたが、今後はこの歯止めをなくし、高値で入札した業者に落とすことも可能になった。経済観察網などによると、商品住宅市場では競争力が一段と高まり、インターネット、デジタル、人工知能(AI)に対応した優れた商品(住宅)の開発が進み、不動産業者のサービスも向上されるであろうという。

「保障性住宅」の確保という発想は、習近平国家主席が2016年に提示した「住宅は住むものであって、投機の対象にすべきでない」とするスローガンを受けたものであろう。この結果、住宅取引全体に規制がかけられ、GDPの3割を占めるという不動産業全体を冷却化させた。さらに、大手デベロッパーの経営を破綻させ、ひいては経済全体にデフレ化をもたらすことになった。そこで、苦肉の策として出されたのが一般住宅と豪華住宅の区分けだ。一般の給与所得者には居住を保障し、富裕層にはあくまで高額で豪華な物件を提供し、勝手に投機の対象にしてくださいと求めた。言ってみれば、社会主義的な政策と資本主義的な政策の両立を図ったものだ。ただ、将来にわたって2つのカテゴリーの住宅が厳密に区別でき、規制と緩和の調整ができるのか、疑問点は少なくない。

14号文件は今後の不動産開発、住宅建設の方向性を示したもので、すでにある過剰物件や爛尾楼の処理については触れていない。既存の商品住宅を保障性住宅に替えろと少しだけ書いてあるが、現実的に可能なのか。すでに大量の資金を投入して住宅建設した業者は、低価格の保障性住宅に転換したら大損を被る。しかも、住宅がすでに過剰にある状態からすれば、デベロッパーは新規に住宅を建設するより、むしろ既存商品住宅の低廉化を求められる方が多くなるであろう。また、商品住宅が突然安い住宅価格になったら、すでに高額なローンを組んで商品住宅を購入している居住者はどう思うか。怒りがこみ上げ、「われわれの価格も安くしろ」と叫びだすに相違ない。

<債務問題-碧桂園では>
大型デベロッパーが手掛けた国内外の不動産開発は、これまでも当欄で再三言及してきたように負債償還ができず、大問題になっている。最初に注目されたのは恒大集団であり、外債を含めた膨大な借入金の返済不能に陥った。恒大の負債総額は今夏の時点で2兆3882億元とされる。恒大に次いで大きなデベロッパーは碧桂園だ。昨年末時点で国内に3121カ所のプロジェクトを抱えているが、負債総額は1兆4300億元とも言われる。今年8月、総額2250億元の債券の利払いができなかった。ロイター通信によれば、同企業は海外での事業も多く、約110億米ドルのオフショア債券などを抱えており、このうち10月に期限が来た一部の債券の支払い処理ができなかったという。現在の不動産不況状況からすれば、今後の返済も難しい。

恒大集団の場合は、トップの許家印会長が逮捕された上、企業自体も次々とデフォルト(債務不履行)を起こし、破産の方向に誘導されているように見受けられる。だが、碧桂園に対しては驚くことに別の方法が取られるもようだ。ロイター通信によれば、中国当局は、生命保険を主体とする金融コングロマリットの「平安保険集団」に対し、碧桂園の経営権を引き継ぎ、救済するよう指示したという。保険企業が不動産企業を救うという驚きのニュースは即時に証券市場に影響を与え、平安集団の株価は国内市場(A株)で1.5%、香港市場では5.5%下落し、逆に碧桂園の株価は一時16%アップという大幅増になった。

実は、平安集団は今年6月末時点で、碧桂園の5.04%の株式を所持しており、創業家に次ぎ2番目の株式保有者になった。平安は碧桂園の業績悪化や破産を望まないし、破産すれば平安の企業経営にも影響を及ぼす。という観点から碧桂園支援に乗り出すのではないかという一種の期待感が世間にあったことから、平安の動向が注目されていた。もちろん、当局側も平安の支援を望んでいることは容易に想像がつく。だが、ロイターの報道について、平安集団のスポークスマンは「碧桂園支援は事実に即していない。わが社は中国政府の関係部門、機構から(救済に関して)いかなる要請も指示も受けていない」と否定、逆に、どういう経路でそういう報道をしたのかとロイター側に釈明を求めた。

これに対し、ロイター通信は「平安集団が報道を否定してきた」などとする同社との一連のやり取りを細かに報じた。にもかかわらず、相当の確証を得ているためか、碧桂園支援の報道そのものは取り消さず、謝罪することもなかった。ロイターは、碧桂園の創始者で、会長でもある馬明哲氏に取材を求めたが拒否されたことや、国務院新聞弁公室や広東省政府も「ノーコメント」を貫いていることを取り上げ、報道の真実性を強調している。米系華文ニュースもロイター情報を補完するように、複数の消息事情通の話として、中国当局が平安保険集団に対し、碧桂園の50%以上株式を取得して経営権を握り、救済するよう求めたことがあったと報じている。

華文ニュースはまた、李強総理が平安と碧桂園両社の本部がある広東省政府に対し、仲介役として救済計画を練るよう指示したとも伝えた。国務院は、恒大集団に続いて碧桂園の大量の負債まで穏便に処理できなければ、不動産企業に大量の貸し出しをしている金融機関の崩壊まで発展してしまうという危機感を持っていたのだ。さらに、消息事情通によれば、「この救済話は地方政府の指示を受けて今年8月の段階で開始され、目下話し合いの最中である」としており、現在、平安側が碧桂園の経営内容について調査を進めているもようだという。買う種報道を総合すれば、平安の救済話は存在するが、まだ着手の段階で、最終決定されていないということなのであろう。


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