第608回 ポルポト派の最後の拠点で逮捕された詐欺グループ 直井謙二
ポルポト派の最後の拠点で逮捕された詐欺グループ
小欄アジアの今昔・未来の590回「3度目のカンボジア紛争終結」でカンボジア紛争が過去のものとなったと書いた。特にポルポト派最後の拠点だったプレアビヒア寺院からポルポト兵が姿を消したのとほぼ同時にタイ国境に近いアンロンベンでポルポトが死去し荼毘に付されたことでカンボジア紛争ひいてはインドシナ紛争の終結を感じた。今後ポルポト派について書くことはないと感じていた。ましてや掲載からおよそ半年後再びポルポト終焉の地アンロンベンについて触れるとは想像もできなかった。
8月、アンロンベンを拠点に現金をだまし取った特殊詐欺の容疑で日本人の男2人が逮捕されたニュースに触れ、特殊詐欺グループの根深さと広がりに驚くとともにカンボジアの様変わりを改めて感じた。
今年4月プノンペンから180キロ南にあるリゾート地、シアヌークビルのホテルで日本人の男19人が特殊詐欺の疑いで逮捕された。犯人らが借りていたリゾートホテルの部屋から大量の携帯電話やパソコンが見つかった。2月フィリピンのマニラの拘置所でも特殊詐欺グループが逮捕される事件が起きたことをみると、特殊詐欺グループの拠点は東南アジアに展開していると思われる。シアヌークビルやマニラなど人口の多い都市が拠点になりやすい。
アンロンベンを拠点にした特殊詐欺グループの活動には驚きを感じた。1998年4月、ポルポト死去のニュースを取材するためタイ軍に付き添われタイ国境の寒村アンロンベン付近を訪れたことを鮮明に覚えている。タイの兵士が警備するなか、国境から100メートルほど離れたアンロンベンでポルポトが荼毘に付される煙を確認した(写真)。村はジャングルに囲まれ田畑も見られず、荒れた寒村だった。現在のアンロンベンは高層のホテルが建ち、カジノとポルポトの墓地を売り物にする観光地に変わっていた。
歴史的にカンボジアの急速な変化の裏には大国中国の存在がある。1975年ベトナム戦争終結の直後、腐敗するロン・ノル政権を倒し原始共産主義を掲げ政権を奪取したポルポト政権は中国と良好な関係を持ち、政策は文化大革命を模したともいわれる。都市化や文明が格差を生むとして全国民を農村に下方させ強制労働や虐殺を繰り返した。
現在では中国からの潤沢な資金提供がなければリゾートホテルもアンロンベンのカジノを目的としたホテルも実現できなかった。カンボジアは再び中国の影響を強く受けているが、その方向は全く逆となっている。
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