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〔21〕北朝鮮旅行の費用内訳を示したパンフレット 小牟田哲彦(作家)

〔21〕北朝鮮旅行の費用内訳を示したパンフレット 小牟田哲彦(作家)

〔21〕北朝鮮旅行の費用内訳を示したパンフレット

旅行会社が主催する海外団体ツアーの行先の中で、北朝鮮は、最もツアー代金の内訳を推測しにくい国の一つである。日本の通常のパスポートで北朝鮮への観光旅行ができるようになった1990年代以降、1週間弱の旅行日程で20~30万円というのが日本から北朝鮮への団体ツアーの価格の相場として安定していたが、すぐ南の韓国には10万円もかからずに行けるのに北朝鮮旅行はなぜこんなに高いのか、という疑問を、一介のツーリストが正確に分析することは難しかった。

海外旅行の場合、日本から当該国への往復航空運賃はもとより、世界中のほとんどの国では、ホテルの宿泊費でも列車やバスの運賃でも個人旅行者が現地で直接支払う場合の価格が明らかなので、それらの費用の合計に手配手数料が上乗せされると考えれば、だいたいの団体旅行の価格設定はそれなりに納得がいく。ところが、個人で自由な旅行ができない北朝鮮の場合、特に北朝鮮国内での個々の交通費や宿泊費の金額を知るのは難しい。日本や北朝鮮で刊行されている旅行ガイドブック、世界中の旅行先を網羅する『Lonely Planet』の「Korea」版(巻末に「North Korea」のページがある)を開いても、個別のホテルの宿泊費は記されていない。

ところが、1990年代に日本で旧ソ連や中国などへの団体旅行を手掛けていた某旅行会社のパンフレットに、興味深い記述があった。「最短モデルコース☆北朝鮮気ままな旅(2名様以上)」という手配案内の欄に、平壌市内のホテルの宿泊費や平壌発着の国際列車の運賃が日本円で個別に示されているのだ(画像参照)。ツインルームの料金は高麗ホテルが1泊16,000円、普通江ホテルが12,000円(シングルの場合は1泊あたり3,000円追加)。平壌から北京への国際列車は片道35,000円、平壌からウラジオストクへの国際列車(2泊3日)は片道22,000円(毎日運行)、といった具合である。

高麗ホテルは今でも外国人旅行者の宿泊施設として人気があるが、この旅行会社では普通江ホテルを一押ししていたらしい。同ホテルの設備案内には「日本人スタッフ」が常駐しているとか、「日本のNHK衛星放送、CNNなど」が視聴できるとか、VISAのクレジットカードが使えるといった記述まである。2006(平成18)年7月以降、18年近くにわたり日本政府が北朝鮮への渡航自粛勧告を発出し、旅行会社に対して北朝鮮への団体ツアーを企画しないように、との要請を出し続けている現在では考えられない旅行情報である。

これらの宿泊費等は日本円で表示されている以上、当該旅行会社の手配料金が上乗せされているだろうから、当時の現地価格を正確に反映しているとは考えにくい。ただ、北朝鮮旅行の費用がどのような積算によって20~30万円もかかるのか、を推測するための貴重な資料ではある。こうしたパンフレットは書籍として国会図書館等で保存されるわけではないので、今から探し出すのはとても難しい。わずか30年ほど前のことなのに、まるで、戦前の旅行資料を集めるが如き果てしない探究活動になってしまうのである。

《100年のアジア旅行 小牟田哲彦》前回
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