1. HOME
  2. 記事・コラム一覧
  3. コラム
  4. 雲南省昆明-ビエンチャン間の国際鉄道が年末に開通-ASEANへ中国影響力強まるか(下) 日暮高則

記事・コラム一覧

雲南省昆明-ビエンチャン間の国際鉄道が年末に開通-ASEANへ中国影響力強まるか(下) 日暮高則

雲南省昆明-ビエンチャン間の国際鉄道が年末に開通-ASEANへ中国影響力強まるか(下) 日暮高則

雲南省昆明-ビエンチャン間の国際鉄道が年末に開通-ASEANへ中国影響力強まるか(下)

<シンガポール-マレーシア高速鉄道>

シンガポール(SP)とクアラルンプールを結ぶ高速鉄道(HSR)建設計画は、もともとマレーシア(MY)のナジブ首相が2010年9月に発表したもので、2013年にSPのリー・シェンロン首相に呼びかけた。初期の目論見としては、2015年に建設をスタートし、2020年までに完工することで一致していた。だが、MY側に政権交代があり、マハティール新政権が国家の債務増加を懸念し、計画遂行を2020年まで延期することを決めた。ただ、さらなる経済発展を期すに高速鉄道が必要との両国の意向は変わらず、水面下で交渉を継続させた。MY側は建設コストの削減や駅周辺などのビジネス発展モデルの提示などをSP側に求めてきたが、結局2020年末までに合意に至らず、21年1月1日、両国政府はHSR計画の断念を正式発表した。


ところが、2021年8月、MYにイスマイルサブリ新政権が誕生するとまた新たな動きが出てきた。イスマイル首相が11月29日、SPを訪問してリー首相と会談し、再度HSR建設を持ち出した。亜州週刊によれば、イスマイル首相はSP訪問前にHSR建設の再提案についてまったく政府内で相談した気配はなかったようで、突然首相会談で取り上げたことに両国国民は驚いている。この提案に対し、リー首相は「我が方は再提案を拒否しない」と述べ、再交渉に応じ、MY側の新たな条件提示を待つ姿勢を示したと言われる。というのは、HSRのシンガポール側の始発駅は海峡を越えたSP領内にあるとはいえ、ほとんどの路線はMY側にあり、あくまでこの鉄道計画は同国が主導権を握っており、SP側はあくまで受け手であるからだ。

両都市間の距離は約350キロで、東京と京都間とほぼ同じだ。ナジブ首相時代の当初の計画では、最短で90分で走らせる高速列車を望んでいたという。現時点で両都市間を結ぶ交通手段としては鉄道の在来線やバスがあり、4時間程度かかる。短時間で往来しようとすれば航空機があり、所要時間は約45分。ただ、運賃が高いことに加えて、空港までのアクセスや待ちなどのロスタイムがあり、実質はその2倍以上の時間がかかってしまう。その点、日本の新幹線網が航空路線を奪ってきたように、駅へのアクセスが楽で直ぐ乗れる高速鉄道の便利さはあなどれない。

HSR計画が再度動き出すようなことになれば、どの国の支援を受けるかが大きな問題となる。亜州週刊は「中国、日本、韓国が手を挙げているが、最終的に中国と日本が争う形になるだろう。マレーシアへ中国の経済的な影響力を考えると、最終的に中国が有利ではないか」と指摘している。昆明-ビエンチャン線がすでに中国の規格で運行されており、将来的に直通列車がタイを経由してクアラルンプールやシンガポールまで走るとなれば、明らかにHSRも中国規格で進めた方が好都合と考えられる。中国鉄路総公司の盛光祖総経理は「中国企業はジョイントベンチャーを組んでHSR計画の調査研究を進めており、投資額や鉄路、駅周辺の総合的な建設プロジェクトの提案ができる」と意欲的だ。

確かにHSRとの連結、コスト面、融資条件などを考慮すれば、中国側が有利であろう。だが、日本側も負けるわけにはいかない。日本はインドネシア(IN)での高速鉄道建設で中国との支援競争に負けたが、現在INのその建設は当初計画よりかなりの遅れが出ている。JR東日本はそれを指摘しながら、「安全性の面、定時運行、維持補修などの面で日本の新幹線方式を採用した方が(中国より投資額が高めであっても)最終的にコストに見合う」とMY側を説得していくことになるという。最近では、INの高速鉄道で高架線の支柱が倒壊する事故もあった。MYもそれを見ているはずだから、客観情勢は日本側に有利になっている。

<中国-ラオス鉄道は債務の罠?>

中老鉄道プロジェクトの工期は約5年だった。ジェトロによれば、中国側路線は国家鉄路集団など企業3社、ラオス側路線は「ラオス中国鉄道会社」という両国の合弁会社が建設を受け持った。総工費約59億8600万米ドルで、そのうち6割の約35億ドル余は中国輸出入銀行からの借款で賄われる。この借款は、中国とラオスが7対3の割合で負担するとしており、中国側の持ち分24億8000万ドルに対し、ラオス側の持ち分は10億6000万ドルだ。返済は鉄道の利益に合わせて長期にわたって行われるが、赤字続きであれば、当然ラオス側の持ち分は国家の債務となる。ラオス政府はこの借り入れに対し「政府保証をしていないので、我が方の債務ではない」と主張しているようだが、そうであれば、ますます中国の権益が増すことになる。

総工費の残りの23億ドル余は両国合弁企業からの出資の形を取る。その出資比率は中国、ラオス7対3の割合で、中国側の16億3000万ドルに対し、ラオス側が出す金は7億3000万ドル。さらに、ラオス分のうち4億8000万ドルは、わずか2・3%と格安金利で中国輸出入銀行からの借り入れである。結局、ラオス政府の当面の財政負担は2億5000万ドル程度だが、それでも、一人当たりGDPがわずか2630ドルという農業国ラオスにとっては相当な重荷になることは間違いない。

以上見ての通り、中国-ラオス鉄道は、建設も運営も中国規格であり、資金面もほとんどが中国から出ていることが分かる。鉄道路線両側20キロ圏内での商業開発権も中国側主体の合弁企業が握るという。となると、中国からラオスへの人流、資金投入が増えることで、ラオスはますます中国の経済圏に組み込まれ、主体性を失いかねない。債務の返済が滞れば、中国は権益確保を強く主張してくるであろう。このため、観測筋の間では、99年租借となったスリランカのハンバントタ港などと同様に「債務の罠に陥る危険性がある」と心配する声がある。いや「インフラ権益を奪われることで経済が牛耳られ、ラオスが事実上中国の一省、老撾(ラオス)省になってしまうのではないか」との見方も出ている。

問題はこの国際列車が経営的に成り立つかという点。中国系テレビ局CGTNによれば、昨年12月3日から21日の間に、この中老鉄道を利用した客は42万人。貨物列車は203本が運行され、5万トンの貨物が運ばれたという。ただ、この情報をよく見ると、シーサンバンナまでの国内移動の旅客がほとんど。コロナ禍もあり、国境越えの観光はまだまだのようだ。国際列車として本格稼働した場合はどうか。世界銀行の研究報告によれば、2025年にビエンチャンーボーデン間の月間予想旅客は48万人、2030年には110万人に増えそうだというが、これでも多額の投資コスト回収には不十分。結局、貨物輸送に頼らざるを得ないが、国境越えの貨物量は2030年に700万トン程度の見込みだ。貨物は輸送費が安いので、借金返済には程遠い。

タイも中国の資金、技術協力で国内、バンコク-ビエンチャン間の国際高速鉄道の構築を目指している。首都バンコクからナコーンラチャシーマ(コラート)の町まで250キロで、すでに工事は終わっている。同駅からラオス国境の町ノンカイへは356キロの距離で、この工事も開始された。そこからメコン川を渡ってビエンチャンに至る30キロは、タイ、ラオスと工事主体となる中国の3国が出資金や権益分割などで交渉すべき内容が多く、まだ最終決定はなされていない。タイにとっては、北東部ノンカイと南部のスワンナプーム、ウタパオ両空港を結びつける空の交通路構築の方が先で、そちらの建設を優先させたい考え。ラオスへの国際鉄道を後回しにするのは、やはり直通列車で中国の影響力が一段と増していくことへの懸念があるからかも知れない。

<それでも、中国、ASEAN双方に利点?>

米系華文サイトによれば、タイ・ワライラック大学の政治学者トリン・アイヤラ博士は中国-ラオス鉄道や汎アジア幹線鉄道の意義について、「中国とASEAN諸国経済の戦略的共同発展に寄与する。なぜなら中国側はASEANへの政治、経済両面での影響力強化を望んでおり、ASEAN諸国側は、この鉄道によって(手つかずの)沿線の土地を開発でき、中国や他国と連結することで国内経済を振興させるチャンスとなるからだ」と歓迎する。オーストラリア国立大学戦略国防センターのグレグ・レーモンド教授は「中国には2つのメリットがある。一つは中国がバックヤードカントリー(裏庭国家)と言うべきASEAN諸国との連結を強め、人、物資を送りやすくなること。もう一つは(影響力を強めることで)この地域を新たな経済特別地域とし、生産、サプライチェーン、消費体系を作り上げることができることだ」と話している。

真偽のほどは分からないが、こんな逸話がある。かつてタイのタクシン首相が軍事クーデターによって追放された後、軍事政権側は、タクシン氏の祖先が中国系であることから、中国がタクシン支援に動くのではないかと懸念し、タイ政権幹部が北京を訪問した際、「中国はタクシン支援に回らないでほしい」と釘を刺した。すると、中国側幹部は「タイは中国の陸続きであり、人民解放軍がその気になれば、4時間程度でバンコクを制圧できる。(そのような小国が)中国に指示などしないでほしい」と反発したという。高速鉄道ができれば、一段と軍の移動はたやすくなり、タイにしてみれば、安全保障上の懸念が増すことになるだろう。

ただ、タイにとっては中国が最大の貿易相手国だ。2002年に中国ASEAN自由貿易協定(CAFTA)が結ばれたあと、輸出入に拍車がかかった。タイ、ASEAN側にすれば、中国の政治的な影響力の拡大を望まないながらも、経済関係の発展には期待する。アンビバレンツな状況だが、世界銀行の支援もあり、汎アジア鉄道網が今後、着実に形成されていくことは間違いない。

タグ

全部見る