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第295回 タリバンから「イスラム国」へ 伊藤努

第295回 タリバンから「イスラム国」へ 伊藤努

第295回 タリバンから「イスラム国」へ

世界を震撼させた2001年9月の米同時テロ直後に当時のブッシュ政権が宣言した対テロ戦争の最初の舞台となったアフガニスタンをめぐる情勢がこの年末から年明けにかけて大きな節目を迎える。すでに今年に入ってから段階的に撤収していた米軍主導の北大西洋条約機構(NATO)の主力戦闘部隊が年末までに全面撤退し、年明けからはアフガンの軍と治安部隊に対する訓練や助言を主な任務とする1万3000人規模の残留部隊がとどまるだけとなる。

9・11同時テロの実行グループである国際テロ組織アルカイダの首領ウサマ・ビンラディン容疑者ら最高幹部の身柄引き渡しを拒んだ当時のアフガンのタリバン政権を武力で打倒したのが対テロ戦争の始まりだったが、このアフガン戦争があのベトナム戦争の期間を超える14年にも及ぼうとは「想定外」だったと言っても過言ではあるまい。
タリバンは「神学生」を意味するイスラム原理主義組織だが、最高幹部のオマル師ら当時の政権幹部は、米軍の電光石火の作戦が始まるや、首都カブールから敗走し、もともとの地盤である南部のカンダハル方面に後退した。政権打倒に要した日数は1か月に満たず、これで「勝負あり」と多くの人が考えたとしても不思議ではない。

しかし、相対立する国家同士の軍隊が直接ぶつかる正規戦とは違って、単なる反政府武装組織に転じたタリバンはゲリラ勢力にすぎなく、多く見積もって数万人規模の戦闘員を抱えるタリバンの掃討はもはや時間の問題とみられていた。ブッシュ政権が呼び掛けたアフガンでの軍事作戦には、欧米地域が主舞台のNATO加盟国も続々と参戦し、最大時には10万を超える外国軍部隊がアフガン各地に駐留した。

近代的兵器を大量に投入した米軍などの外国駐留軍に対し、徒手空拳で戦うタリバンの大きな武器となったのが自動車、あるいは人間に爆弾を取り付けた自爆テロ攻撃や、幹線道路の路肩に埋め込んだ簡易爆弾を使った奇襲攻撃だ。武器や兵器、兵力規模のどれを見ても、外国軍とタリバンの優劣は誰の目にも明らかだが、ゲリラ戦に転じてからは戦況は一進一退で、ここ数年は反米機運に乗じたタリバンの巻き返しが目立つ。

純粋に軍事的にみれば、米軍を中心としたNATO軍は全面撤退する時期ではないのだが、2009年に誕生したオバマ米政権は対テロ戦争の終結公約に基づき、アフガンと並行して戦ったイラクからも米軍兵力を段階的に撤収する方針を発表。アフガン戦争の泥沼化で厭戦機運が高まった米国を含む欧州などの駐留部隊派遣国も相次いで撤収した。

しかし皮肉なことに、米軍などが撤収したイラクでもアフガンでも、中央政府の失政や宗派抗争といった別の要因が重なったことと相まって、タリバンを含むイスラム過激派が各地で勢力を伸長させ、紛争地域における治安情勢はむしろ以前に比べ悪化している。今年のテロとの戦いにおける大きな出来事は、シリアとイラクで支配地を広げ、6月にカリフ制に基づく「イスラム国」の国家樹立宣言だったが、これもアフガンでのタリバン掃討作戦の展開と決して無縁ではない。

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