第296回 見直される中国の自転車 直井謙二

第296回 見直される中国の自転車
中国の自転車といえば改革解放前のシンボルだった。北京の大通りなど通勤する人々の自転車はまるで大河の流れのようだった。解放後、市場経済が導入され富裕層が誕生し、車社会が到来した。毎年夏、中日友好協会が招待する日本のジャーナリスト訪中団に参加させていただいているが、北京も地方都市も年々車の渋滞が激しくなっているのを実感する。当然、排気ガスによる大気汚染もひどくなっている。
公共交通、特に地下鉄が見直されていて北京でも地方都市でも地下鉄工事の現場を目撃するようになった。地下鉄は鉄道と違って住宅など既存の設備とのトラブルが少ない。日本にも留学経験もある優秀な中日友好協会の職員T氏は留学中よく日本の地下鉄を利用したという。
地下鉄に乗るたびに地下鉄の混雑に閉口し、北京の地下鉄は空いているのになぜ日本の地下鉄はこんなに乗客が多いのかと疑問を持ったという。現在、T氏は北京に住み地下鉄で通勤しているが、これまで空いていた北京の地下鉄が混み始め、地下鉄の通勤地獄は日本の比ではないと言う。あまりにも危険なため、ホームに入ることもたびたび規制されるというのだ。

そこで今北京で注目されているは自転車だ。車こそ富裕層のステータスシンボルだったが、いまや自転車が取って代わっているという。中国では農民戸籍と都市戸籍に分け、地方の農民の都市への流入を規制してきた。都市戸籍を持たない地方の農民は農民工として都市に住んでも医療や教育などで差別を受けてきた。第3次産業を経済活性の目玉にした中国政府は地方の農民が都市に住む都市化を急いでいる。こうしたことを見越して地方で値下がりしているマンションが北京では高騰している。自転車で職場まで通うとすれば自宅からせいぜい15キロから20キロまでだ。一部の富裕層だけが自転車で通える北京の中心街に近いマンションに住む事が出来る。渋滞する車を横目にさっそうと北京の大通りを自転車で職場に向かう人こそ本当のセレブというわけだ。そういわれて北京の街角を見まわすとこれまで見なかった放置自転車が散見される。
中日友好協会のガイドで人民日報の子会社のネット新聞社を訪ねた。会社の前には駐輪場が用意され、高そうな自転車がとめてあった。ネット新聞社で働く若い編集者や記者はエリートだという証拠でもある。今回、江西省・南唱市も訪ねたが、北京ほど自転車を見かけなかった。自転車から車へ、さらに地下鉄など公共交通へ、そして北京は今自転車に戻ってきた。
写真1:北京のオフィスビルに置かれた自転車
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