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第277回 6年後の東京五輪の経済効果は?(後編) 伊藤努

第277回 6年後の東京五輪の経済効果は?(後編) 伊藤努

第277回 6年後の東京五輪の経済効果は?(後編)

2020年の東京五輪開催が決まってよく言われるのが、「まだ6年も7年もある」、その逆に「あと7年しかない」という二つの相反する見方である。五輪の開催までには、主会場となる国立競技場の大幅改修をはじめ、28に上る競技施設の建設や整備、周辺地区の再開発、インフラ整備などの課題が山積する一方で、「東京五輪世代」と呼ばれるさまざまな競技の有力選手の発掘と育成も急務となる。いずれにせよ、五輪開催までにこれらの諸課題にどう取り組むか、その準備期間が7年というのは絶妙な時間でもある。

2020
年の東京五輪招致が決まったというわけではないが、日本のお家芸ともいわれる体操界では、リオ、東京でも活躍が期待される内村航平のほか、高校2年生で世界選手権で日本人最年少メダリストとなったG難度「シライ」の白井健三、まだ20歳の「ゆかのスペシャリスト」加藤凌平といった具合にホープが目白押しだ。ロンドン五輪で大活躍した日本の競泳陣、陸上の短距離陣にも次世代の期待の星が相次いで名乗りを上げている。「オリンピックは参加することに意義がある」という近代五輪の祖、クーベルタン男爵の言葉は今も深いメッセージが込められているが、メダル、それも最も輝きのある金メダルを目標に多くのアスリートたちが厳しい練習を重ねている。国別、競技別のメダル獲得数がその国の活躍の目安となるが、五輪開催国は五輪効果でメダルの獲得が増えるのがこれまでのパターンだ。選手育成の強化、ホームでの開催による大応援団の存在が、緊張を伴う五輪を舞台にした本番で大きな力になるのだろう。

五輪によってもたらされるのは、世界一流のアスリートが与える夢と感動だけではない。経済面の効果も大きな魅力の一つで、東京招致委員会の試算では、総工費1300億円の国立競技場の建て替えをはじめ、投資と消費支出の増加で201320年の7年間に3兆円近くの経済効果が期待できる。全国では約15万人の雇用を創出することになるという。これとは別に、全国でインフラ整備や観光が盛んになれば、150兆円に達するという桁違いの試算もある。

著名な経済アナリストは「東京五輪開催で経済自体が大きくなるわけではないが、景気は『気』からというように、明るい話題で国民の気分が良くなり、経済が好循環するという影響はある」と指摘する。特に、東京都と周辺に立地する競技会場のうち、28会場が東京湾岸エリアを中心とした半径8キロ圏内に入り、この臨海副都心地域の開発が進むことは「数少ない目に見える経済効果」(経済アナリスト)となりそうだ。

晴海地区には約17000人が収容できる選手村(総工費約1000億円)が建てられ、五輪後にマンションとして分譲、賃貸されるが、選手村の建設予定地近くでは超高層マンションの建設がすでに始まっている。また、港、新宿、渋谷の3つの区にまたがる神宮外苑地区でも東京都は大規模な再開発計画を描いており、8万人収容のオリンピックスタジアム(国立競技場の建て替え)は2019年に完成の予定だ。

ただし、半世紀以上前の東京五輪と6年後の東京五輪の最も大きな違いは、成熟した都市でのオリンピック開催ということで、道路や鉄道といった重厚長大型のプロジェクトではなく、「限られた空間においていかに発展していくか」を追求することが大きな課題となる。

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