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第265回 狭い人生観を変えたラテン世界の「寄り道」 伊藤努

第265回 狭い人生観を変えたラテン世界の「寄り道」 伊藤努

第265回 狭い人生観を変えたラテン世界の「寄り道」

前回の本欄では、60歳の会社定年後にインドネシアの日系進出企業現地法人の社長として赴任した学生時代の友人、T君の話を紹介したが、同君からはその後、拙稿についての感想と、可能ならば付け加えてほしいという体験を記した丁寧なメールが届いた。前回書いた文章を手直しして、依頼のあった商社マン時代の経歴や体験を加えてもよかったのだが、その部分も大変興味深い内容だったので、「続編」として取り上げさせていただくこととした。

60歳定年後の友人の華麗な転身」とタイトルを付けた前回のコラムは、大学卒業以来数十年ぶりに再会したT君が、商社マン時代に2回駐在したインドネシアに定年後に再び赴任するに至った企業人としての歩みを振り返り、なぜ白羽の矢が立てられたのかについての理由を、酒席での本人の述懐を基に書き留めたものだった。アジアでの豊富なビジネス体験をくぐり抜けてきた典型的な商社マンであるT君の歩みの紹介は多くの読者に参考になると考えたからでもある。

拙稿に対するT君の感想メールを転載させていただく。

「自分でも自らの歴史を整理しきれないでいる中、卒業後にたどった日々を簡潔かつ美しく書かれると、歯が浮いてむず痒い気持ちになります。泥臭く生きてきたのに綺麗な人生に見えてきて、自分の歩みかなと疑ってしまいます。でも、内容に誤りはありません。

せっかくですので、あえて加えていただくとすれば、

大学卒業後、(商社に入社して)10年ほど中南米を担当してほとんどの中南米・カリブの国々を2年ほどかけて巡回し、ラテンの気質や考え方に触れたのがそれまでの狭い人生観、世界観を大きく変え、ラテンと比較しながらアジアを客観的に見ることができるようになった。

ともすれば、時差2時間の狭いアジア観に陥りがちですが、ラテンの新興国を見て回った経験が私の人生を大きく変えたと思っています。

やっぱり、いろいろな国を見て肌で感じることは島国の日本人にとっては特に重要なことだと実感していて、他人にも勧めています。人生は時に寄り道も必要なのではないかと思います。これからも寄り道をしながら人生を歩んでいこうと思います。富士山、桜と一時お別れするのは残念ですが……。」

60
歳の第一次定年まで企業人として歩んできたT君が新たに培った人生観、世界観に深く共鳴する。筆者は関西にある大学院(国際文化学研究科)で毎年夏、研究者の卵の若い院生や留学生に対して、異文化理解をテーマとした集中講義を行っているが、将来、国際社会で活躍するはずの学生たちにもT君の貴重な経験や寄り道の大切さなどをぜひ紹介したい。


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