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第266回 漢民族とウイグル族 直井謙二

第266回 漢民族とウイグル族 直井謙二

第266回 漢民族とウイグル族

3月中旬、タイ南部で200人以上のウイグル族が不法入国し身柄を拘束された。ウイグル族は「自分たちはトルコ人だ」と主張しているが中国の新疆ウイグル自治区から逃れてきたウイグル族の可能性が強いという。中国当局の厳しい取締りを逃れ、ラオスからメナム川を下ってきたと見られている。

タイ政府と対峙しゲリラ活動を続けるイスラム武装勢力を頼って不法入国するウイグル族が増えているという。タイのイスラムゲリラは10年余り、活動を活発化させタイ政府も鎮圧に決め手を欠いている。さらに南下すればイスラム国のマレーシアがある。ウイグル族にとっては安全圏に逃れたことになる。

1980年代末、パキスタンのアフガニスタン難民の取材中に首都イスラマバードでアフガン難民が開いたバザールを目撃したことがある。驚いたことに難民は異国のパキスタンで自由に商業活動ができるし、移動の制限もないのだ。パキスタン人市民は同じイスラム教徒を救うのは当たり前だと語った。同じ仏教徒でもカンボジア難民などは難民キャンプに閉じ込められ活動の自由はなかった。

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イスラム教徒のウイグル族が漢民族の支配する中国当局の圧迫を逃れ、タイ南部のイスラム武装組織に救いの手を求めても不思議はない。その一方で新疆ウイグル地区を旅するとウイグル族と漢民族の共通点がほとんどないことに気がつく。

まず風体が違う。拘束されたウイグル族はトルコ人だと偽称したというが、ウイグル族の顔つきはトルコ人やペルシャ人に近い人が多い。宗教も異なるし、言語も異なる。イスラム教徒だから豚肉とコメを食べる漢民族とは食生活が違う。マーケットには羊の肉がつるされているし、釜戸でナンを焼いている。(写真)うどんのような麺類もどこかスパゲティに近い。踊りや楽器もペルシャの影響を色濃く残す。客のもてなし方も異なる。丸いテーブルを囲み、酒を酌み交わしながら歓談する漢民族に対し、ウイグル族は羊の丸焼きがご馳走だ。草を加え草原を跳ねているような格好をした丸焼きの羊が出てきて、一番おいしいといわれる目玉を勧められて汗をかいたことがある。魚の生き作りを出し、一番おいしいところを客人に勧める日本人の感覚に共通するところがある。

食事が終われば客も参加して踊りが始まる。シルクロードの時代の旅人のもてなしを想像させる。漢民族による経済支配が強調されるが、習慣や生活に共通点が少ないことも対立原因の一つなのではないだろうか。


写真1:ナンを焼くウィグル族

《アジアの今昔・未来 直井謙二》前回
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