第257回 疑問多い小学校での英語学習義務化(その1) 伊藤努

第257回 疑問多い小学校での英語学習義務化(その1)
今年4月から小学校でも英語の授業が始まる。話す、聞く、読むの3つの能力がバランスよく取れた英語(外国語)習得のためにと導入された革命的変化で、その一環として、小学校での英語学習だけでなく、中学、高校でも英語の授業がすべて英語で行われるという指導方法が導入される。文部科学省による有識者・専門家の検討を経て導入される新たな指導要領ということだが、今回の新たな英語学習方法をめぐっては、賛否両論がある。大学では外国語(外国語学部ドイツ語学科卒業)の習得を専門とし、社会人となってからも報道分野で外国語(英語など)を道具として使わなければならなかった経験を踏まえて、小学校からの英語学習の義務化、中・高校での英語による授業導入などについて、本欄で3回にわたり私見を紹介したい。
個人的には、外国語(英語)の学習は、読み書き・話す自国語の能力の基本が出来上がる中学以降の開始でも決して遅くはないと考えている。英語に興味、関心のある小学生が何歳から始めようと自発的に学習することは一向に構わないが、一律義務化の必要はないというのが筆者の意見だ。
小学校での英語の授業といっても、その内容は中学から習うような基礎的な文法や単語のスペル、発音などの習得に主眼を置いたものでなく、あいさつや簡単な会話中心の授業とのことだが、やはり外国語の学習には、日本語とは全く違う文法の規則や単語の特徴、文章の構成などの知識を同時に覚えるのが不可欠と考えるからだ。
加えて、従来の中学以降の英語学習で、聞く、話すという会話能力を高める比重が少なかったのであれば、これからはそうした分野を強化すれば十分なことではないか。小学生のときは、自ら考える力をつくる土台として、主要教科の国語をはじめ、算数、社会、理科の学習や、情操教育として大切な図画工作、音楽、体育などの教科を強化する方がよほど重要ではないか。繰り返し強調したいが、中学に進学する前の小学校卒業までに、すべての知識の習得、理解の大前提となる国語(日本語)能力を一定の水準に引き上げるのが重要なことと考える。
小学校での英語学習導入の必要性の理由としてよく言われる点が、日本では中学、高校、大学と10年間も英語を勉強しながら、ろくに外国人との会話もできないというものだが、これなどは今後は中学以降の英語学習法の見直しをすればいいだけで、小学校からのスタートは逆に、大切な国語学習の取り組みを減らし、英語嫌いを助長させかねない。
個人的な思い出だが、中学生になって新たに外国語(英語)の学習を始め、自国語と全く違う文法やアルファベットの単語表記、小学校で習ったローマ字との違いなどをとても新鮮に感じたものだ。また、日本語にはない不定冠詞や定冠詞、関係代名詞といった文法の概念も、初めは難しいながら、英語の文章の規則性、正確な表現という日本語にはない特徴を覚えていくことに大きな興味を感じた。換言すれば、比較の視点ということになる。こうしたことこそ、外国語学習の初心者にとっては、知的好奇心をかき立て、自ら学んでいこうとする力となるのだ。
その後、中学で英語の基本的文法や表現を習得し、高校ではそれを土台により難しい文章や仮定法といったより高度の文法を学んでいったが、これまで足りなかったと批判がある「聞く、話す能力」の向上を目指した授業を取り入れつつ、従来の読解の習得も将来に必ず必要となるものなのである。次回は大学での外国語授業の改善の必要性、最後に社会人となってからの外国語使用経験などを紹介しながら、持論を展開させていきたい。