宿題も気を遣う

92年北京。
「落とし物をしたのだけれど,心当たりはありませんか」という「ちらし」を作る宿題が出ました。
失くしたお財布の外観,日時や場所の心当たり,こちらの連絡先などを記します。
落とし主の名が「日本花子」ではありきたりなので “胡耀邦” Hú Yàobāngとしました。胡耀邦(こ・ようほう)氏は国務院副総理を務め,人気のあった指導者です。召された日が偶然私の誕生日で,勝手に親近感を覚えています。
翌日返して戴いた宿題は,朱が入るのを通り越し “胡耀邦” の3字がそっくり削除されていました。
先生は苦笑して “这有点儿那个什么……” Zhè yǒudiǎnr nèige shénme……(これはちょっとそのナニよね)と仰います。
中国では安易に指導者の名を使ってはいけない由です。たかが留学生の作文でも,駄目なものは駄目。
次に,交際相手を求めるちらしを作る宿題がありました。先生を困らせぬよう,今度は書き手の名を “李朋” Lǐ Péngとしました。
総理を務めた “李鹏” Lǐ Péng(李鵬 り・ほう)氏と似てはいますが,ちゃんと別人にしたつもりです。でもこれも “李友” Lǐ Yǒuに換えられて戻ってきました。
日本でも「大石内蔵助」が,歌舞伎では「大星由良之助」。
一種の “入乡随俗” rùxiāng-suísú(郷に入っては郷に従え)でしょうか。
(落合理子)
・・・・・・
《傻瓜通讯ー中国語珍道中》は「東亜学院季報」に掲載していたものを再掲してきました。
先月から書きおろしを掲載しています。
ほかのクイズ・コラムは<こちら>から、中国語の勉強は<こちら>からどうぞ。
ツイート