第177回 花粉症あれこれ 伊藤努

第177回 花粉症あれこれ
若い時分は春の息吹が感じられる3月から4月の早春の季節が好きだったが、ここ20年余りは逆に1年で一番苦手な時期となってしまった。20年ほど前から花粉症にかかってしまったからである。欧州での駐在を終えて2年目の1990年代初めの早春に初めて花粉症のさまざまな症状を経験した。くしゃみ、鼻水、目の痛みと、花粉症のつらい症状が続く1カ月ほどは、大げさに言えば、集中力が欠け、何をするにも億劫になる。散歩などもできない。花粉症にかかっている方なら、誰もが経験することだろう。
その後、1990年代後半にタイに駐在したが、同国ではスギ花粉がないためか、滞在中は花粉症から解放され、うれしかった。しかし、2000年初めに再び、日本に戻ると、また猛烈な花粉症の症状に見舞われた。今では国民病ともいわれる花粉症だが、20年以上前の1980年代までは、かかる人も少なく、大きな社会問題とはなっていなかったように記憶する。
花粉症にかかる人は近年、ますます増える傾向にあるが、この病気の不思議なところは、それまで花粉症に全く無縁だった人がある年から突然、患者になってしまうことだ。筆者の場合も、花粉症の症状が初めて出たその年は、なぜこのような発作的なくしゃみや鼻水が出るのか訳が分からなかった。2年目からはマスクをしたり、できるだけ外出を控えたりして、症状が重くならないように注意をしたものだが、前年からの気候的な要因でスギ花粉の飛散が平年よりも多くなると、自衛手段の効果も小さくなってしまう。
花粉症の症状として、鼻水をかむ回数が増えたりして集中力が欠けるといったことが出てくると書いたが、ちょうどこの時期に受験シーズンを迎える受験生にとっては、人生の一大事と言えるのではないか。入学試験では、普段の実力を発揮できる平常心とともに、限られた試験時間に集中することが何よりも大事だが、その最中にくしゃみや鼻水が出たりすれば、花粉症の症状のない受験生に比べ、大きなハンデを背負ってしまう。
先日の新聞報道によれば、九州の離島などにはスギ花粉が飛散しないので、花粉症の人も嫌な症状も出ずに、自然の中で快適な旅ができるとあって、花粉症の最盛期にそれから解放されることも狙った旅行が人気を呼んでいるのだという。
東南アジアの各地では花粉症のような病気の流行は報告されていない。九州での離島の旅が人気を呼んでいるように、花粉症の最盛期にその症状から解放される海外旅行や国内旅行が今後、増えていくかもしれない。ともあれ、花粉症による国家的な経済の損失は計り知れない。担当のお医者さんには、何とか花粉症の症状を劇的に軽減する治療法を早急に見つけていただきたいものだ。