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第625回 身体能力の衰えについての雑感 伊藤努

第625回 身体能力の衰えについての雑感 伊藤努

第625回 身体能力の衰えについての雑感

パリで開催された夏季五輪は体操やフェンシング、スケートボードなどさまざまな競技で、日本人選手が個人でも団体でもいかんなく実力を発揮してメダルラッシュとなり、現地からのテレビ映像にクギ付けになった方も多いに違いない。オリンピックには夏季、冬季を含め多くの競技種目があるが、参加する選手(オリンピアン)はいずれもそれぞれの国で超一流のアスリートばかりで、4年に一度の競技の晴れ舞台で披露される素晴らしい技術やテクニックに魅了されるとともに、そうした極限下でのパフォーマンスを支える身体能力の高さにも思わず目を見張らされる。男子体操の団体、個人総合、種目別の鉄棒・平行棒で金メダル3個、銅メダル1個を獲得した日本体操界の若きエース、岡慎之介選手(20)の活躍ぶりや高い身体能力などは今後、長く語り継がれることだろう。

◇甲子園で活躍の名投手が始球式に登場
パリ五輪も後半に差し掛かった87日には、高校球児にとっての「聖地」とも言える兵庫県西宮市の阪神甲子園球場で全国高校野球選手権大会が始まり、開幕試合前の開会式のテレビ中継に見入った。というのも、今年は高校野球の春、夏の全国大会の会場となっている甲子園球場の開場100周年ということで、「甲子園100年の歴史に鮮烈な印象を残した選手」として栃木県の作新学院の元エース、江川卓さん(69)が開会式に招かれ、始球式を行うことを知り、その雄姿をもう一度見たいと思ったからだった。1973年(昭和48年)の第55回大会で甲子園のマウンドに立った江川さんは元高校球児の筆者の2学年下だが、ほぼ同時代に白球を追い掛けたということもあり、全国に名をとどろかせるなど投手として頭抜けた存在だったことは強く印象に残っている。

高校時代から剛速球投手で鳴らした「昭和の怪物」、江川さんは作新学院を経て、東京六大学野球の法政大野球部でもエースとして活躍。大学卒業後は、いまだに語り草になっている変則トレードを経てプロ野球セリーグの人気球団・巨人に入団し、プロの世界でも対戦チームの大勢の好打者から数多くの三振を奪ったのは、野球ファンならずともご存知のはずだ。

甲子園球場での始球式では、振りかぶってから投じた山なり気味の球は、ワンバウンドで捕手のミットに収まった。投球フォームこそ、現役時代をほうふつとさせたが、あの稀代の豪速球投手も古希目前の年齢になると、捕手のミットに真っ直ぐの球を投げられなくなっていることに少しばかり驚いた。

 ◇軽快な動きには欠かせぬ日々の鍛練
これは、かつての名投手の江川さんをおとしめるための感想ではなく、やはり一流のアスリートと言えども、日々の鍛練なくしては、身体能力の衰えはいかんともしがたいと自戒を込めて思ったからである。この点で、年齢は違うとはいえ、日本のプロ野球と米大リーグで数々の大記録を打ち立てた外野手のイチロー選手は現役引退後も、高校時代は投手だった経験も生かして試合のマウンドに立ち、素晴らしい投球を見せるなど、日々の練習や体力維持の鍛練を怠っていないようだ。

テレビのスポーツ番組などで時々、プロ野球人気球団の巨人や阪神のOBなど、往年の名選手によるマスターズ野球の試合の様子が伝えられ、投げる、打つ、走る、守るという野球選手の基本動作を映像を通じて見ることがあるが、出場している元選手の年齢の違いによる差はあるだろうが、投打のいずれでも動きの軽快な往年の名選手も少なくない。そうした元選手はやはり、ジョギングやゴルフで汗を流すなど日頃の鍛練や体力の維持を怠っていないのだろうと想像する。

身近な体験だが、筆者が以前入っていた60歳以上のシニア野球チームの世話役で高校の大先輩であるYさんは80歳近い後期高齢者にもかかわらず、根っからの「野球小僧」なのか、練習でも試合でも打撃や守備で軽快な動きを見せ、動作の鈍い年下の後輩たちに発破をかけていた。高校野球部の次回OB会でYさんに会った時、甲子園球場開場100周年を記念した全国大会の開幕試合前の始球式での江川さんの「歴史的な一球」についての感想をぜひ聞いてみたい。

 

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