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第139回 「反日デモ」の真相 伊藤努

第139回 「反日デモ」の真相 伊藤努

第139回 「反日デモ」の真相

日中両国間でちょっとした政治的対立が持ち上がると、中国各地で反日デモが起きる。近年では、小泉首相の靖国神社参拝問題で揺れた2005年と、昨年9月の尖閣諸島沖合での中国漁船体当たり事件の直後に、中国人船長の逮捕・拘留を引き金に中国の地方都市に「反日デモ」が燎原の火のごとく広がったことが思い出される。尖閣問題直後の反日デモにわざわざカッコを付けたのは、必ずしも反日デモとは言えない抗議行動がかなりあったと思われるためで、その中には、この2年間に筆者がたまたま訪問した河南省の省都・鄭州と、四川省の省都・成都に隣接する500万都市の綿陽の事例が含まれている。

河南省と四川省は農業が主要産業ながら、ともに多くの人口を抱える有力な省で、鄭州、綿陽のどちらにも日系企業がそれほど進出していないこともあって、日本とは疎遠な関係にある。そのような地方都市で、日中両国間で微妙な問題である尖閣問題が引き金とはいえ、大規模な反日デモが起きるのは何とも不思議である。

今年7月に取材で綿陽を訪れた際、頭に引っ掛かっていたこの疑問を解く機会があった。「昨年9月末から10月にかけて、中国の地方都市で反日デモが相次ぎましたが、その中に綿陽も含まれています。こんな穏やかな都市で本当に反日デモはあったのですか」--。移動中の小型バスで席を隣り合わせた綿陽市人民政府対外友好協力協会の責任者にこう質問すると、「デモは確かにありましたが、反日デモではありませんでした。集会をインターネットで呼び掛けた連中は当初、省都の成都での抗議行動を予定していましたが、公安当局の規制が厳しかったので、急きょ隣の綿陽の公園に変更し、呼応した若者が続々と集まったというのが真相です。集まった理由も日本政府への抗議ではなく、社会に対する不満のはけ口を求めていたのでしょう」と答えてくれた。反日デモ説はきっぱり否定されたわけである。確認はしていないが、鄭州での「反日デモ」も似たようなものではなかったのではないか。

中国四川省の省都・成都にある日系スーパーマーケット

では、当時の日本メディアはなぜ、「反日デモが中国の地方都市に急速に拡大」などと大きく報じたのであろうか。現地にいれば、簡単に確認は取れるが、遠隔地である首都の北京や上海などを拠点に情報を収集している特派員であれば、未確認情報に尾ひれが付き、ニュース価値が大きくなってしまうであろうことは想像できる。デモ参加者が取り締まり側の締め付けを避けるため、「中国の国内問題への抗議ではなく、尖閣問題での日本政府の対応への反発だ」と言い逃れすることも考えられる。広大な中国国内の出来事を迅速かつ正確に報道することの難しさを、振り回された「反日デモ」から知ることができる。

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