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第81回 日中関係の「暗転」に思う 伊藤努

第81回 日中関係の「暗転」に思う 伊藤努

第81回 日中関係の「暗転」に思う

9月に起きた尖閣諸島沖合での中国漁船と海上保安庁巡視船の衝突事件をきっかけにした日中関係の「暗転」には、正直なところ驚かされた。

領土問題を引き金に、表向きは友好関係にある隣国との関係が一挙に冷え切ってしまうのは、韓国と領有権を争う竹島問題でも経験済みだ。とはいえ、れっきとした日本の領海である尖閣諸島沖での衝突事件で中国漁船の船長らを逮捕した後の中国側の強硬な対応は、多くの日本国民の予想を超えるものだった。政府高官も右往左往した。日ごろ、互いが利益を得るという「ウイン・ウイン」の関係を呼び掛ける中国政府が、逆鱗に触れた時はどのような言動を取るか、中国指導者の隠された一面を垣間見た思いだ。今後の対中外交の教訓にしたい。

この夏、中日友好協会の招きで中国を訪れ、政府系シンクタンク、社会科学院の日本研究者らとの討論で、両国の国民レベルでの関係改善の方策を話し合った直後ということもあって、日本側の国民感情を逆なでするような対抗措置が相次いだことに大きな違和感を覚えた。

衝突事件のようなことが起きたからこそ、中国の日本研究者とももう一度同じテーマで話し合いたいと思った。だが、国益をめぐる対立やナショナリズムが前面に出た時には、冷静で理性的な意見や見解はかき消されてしまうのではないか。

討議する中国社会科学院の日本研究者ら

社会科学院での討論で若い女性研究者は、日本のメディアが日中間の政治的、経済的対立のニュースばかりを取り上げ、一般市民レベルでの生活ぶりやその声などを伝えることが少ないと不満を漏らしていた。もちろん、メディア関係者も、そうした草の根レベルでの出来事にもっと目を向けるべきだが、今回の不幸な事件のように国益が真っ向からぶつかり合い、日中の対立が抜き差しならぬ状況に立ち至るような際には、やはり日中それぞれの外交戦略の背景や狙い、あるいは両国の対立の構図などに多くの紙面を割かねばなるまい。そうした報道を見て、国民の多くもまた、反中・嫌中感情を募らせる。

中国の対日外交責任者でもあった唐家せん(王へんに旋回)前国務委員(元外相)は先の訪中の際の会見で、「日中関係にはチャンスとともに大きな試練が待ち受けている」と語っていたが、唐氏が予言した試練が早くも最大級の規模で眼前に立ち現れた。中国が専門の知人のベテラン記者は「日本側で衝突事件の傷が癒されるのに5年はかかる」と厳しい見方を示している。

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