第79回 鄭州の「市原悦子さん」 伊藤努

第79回 鄭州の「市原悦子さん」
前回に続き、中国視察旅行で訪れた河南省の省都・鄭州での忘れがたい中国人女性との出会いを紹介したい。河南省の対外関係や人的交流の担当部署に勤務する李建華さんで、日本語の通訳として2日間にわたって筆者らの訪中団に同行した。明るい人柄と、その顔つきから、仲間内で付けたニックネームが「鄭州の市原悦子さん」。「家政婦は見た!」や女性刑事役のテレビドラマで好奇心旺盛な主役を演じるなど、独特のキャラクターで人気があるベテラン女優の市原さんを彷彿させる女性だったのだ。
既に、同じ公務員の夫との間に中学生となる一人娘を持つ李さんは、若い時分に埼玉大学に3年間留学した経験があり、大の親日家であることが話の端々からうかがえた。名前の「建華」は、中国を建設する気概のある人間に育ってほしいとの願いで両親が付けたと自己紹介したが、その名の通り、愛国者でもあるようだ。
李さんが通訳する日本語は難しい専門用語もあるため、時々、つかえてしまうのだが、訪中団には北京特派員経験者ら中国語が得意なメンバーもいるので、助け舟を出し、何とか仕事をこなしていた。それ以外にも、表現が少し怪しげな日本語については、周りがジャーナリスト連中とあって、即座に「正しい日本語」を教えてもらえるので、李さんも訪中団の面々に好感を持ったようだ。

中国人の農民女性への取材で通訳をする『市原悦子さん』(左端)
別れのときが近づいたころ、李さんが訪中団メンバーの放送局幹部に好意を抱いていることがその言動から察することができた。筆者が、記者になったつもりでその男性にいろいろと質問してみたら、とアドバイスすると、個人的な告白になってしまったので、訪中団のみんなで大笑いした。好意を抱かれた放送局幹部氏は空港での別れ際、自分の首にかけていたマフラーを脱ぎ、李さんの首に巻いてあげていた。鄭州の「市原悦子」さんにも、訪中団の面々にも思い出に残る感動的なシーンで視察旅行は幕を閉じた。