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新型コロナウイルスが米中対立の火に油を注ぐ(上) 戸張東夫

新型コロナウイルスが米中対立の火に油を注ぐ(上) 戸張東夫

<新型コロナウイルスが米中対立の火に油を注ぐ>

台湾、南シナ海、香港、「ファーウェイ(華為技術)」、サイバー攻撃など米中対立の争点は多岐にわたるが、新型コロナウイルスが米中対立の火に油を注ぐ結果になった。新型コロナウイルスの感染源が米中両国の新たな争点として浮上してきたのである。また中国があえてこの時期に自国の権益拡大、軍事力増強のための活動を活発化すると、トランプ米大統領が「(中国との)すべての関係を遮断することもできる」と発言するなど両国関係がここにきて一段と険悪になってきた。経済的にも、軍事的にも一二を争う超大国である米中両国がこのように対立していたのでは国際社会の新型コロナウイルスとの闘いにも影響しないわけがない。何とかならないだろうか。

<新型コロナウイルスの感染者は増え続ける>

中国・武漢で原因不明の肺炎患者が発見されてからすでに半年近い。感染者はいまも増え続けている。我が国をはじめ欧米など一部諸国では経済活動再開の必要もあって、感染者数の増加速度がやや鈍ったとか、感染者数が減少傾向にあるなどを根拠に感染防止のための様々な制限や禁止令を解除したり、緩和したりしており。新型コロナウイルスへの警戒心も鈍くなったようだが、油断すると“第二波”に襲われるという声も聞こえてくる。

『読売新聞』が連日報じている「主な国・地域での新型コロナウイルスの感染状況」のリストと解説によれば日本時間10日時点の全世界の感染者数は約404万人、このうち死者は約28万人だった。添えられたリストによるとこの時点における米国と中国の感染者数は次のようであった。米国の感染者130万9541人、死者7万8794人で国別の感染者では最多。全世界の感染者の三割超を占めるという。一方中国は感染者8万2901人、死者4633人。(『読売新聞』2020年5月11日)

中国は問題の新型コロナウイルスの感染源であるし、また14億人を抱える人口大国でもある。感染者も定めし多いに違いない。少なくとも米国程度かそれ以上と筆者は予想していたので、感染者も死者も意外に少なかったという印象である。中国当局は感染源の武漢市だけでなく隣接する一部自治体を有無を言わせず強引に隔離、封鎖(地元住民は「封城」と呼んだ)するという乱暴な措置をとった。このため「あのようなやり方は共産党政権でなければ不可能だ」と中国内外で話題になったものだが、こんな強行措置をとったからかもしれない。もっとも米国当局は「中国の感染者数は過少」とみていると報じられている。

たとえば米ブルームバーグ通信は2020年4月1日、中国が新型コロナウイルスの感染者数と死者数を過少に報告し、流行の規模を隠してきたとする報告書を米情報機関がまとめ、ホワイトハウスに提出したと報じたという。(『読売新聞』2020年4月2日夕刊)

<米国は新型コロナウイルス感染防止対策に失敗>

米国の新型コロナウイルス感染者は130万9541人、死者7万8794人。国別ではどこの国よりも多いという。こんなにたくさんの人が犠牲になったのである。米国の新型コロナウイルス拡大阻止と感染防止政策は完全に失敗だったといわねばならない。

世界一豊かで、先進的な米国。一流の医師や医学者は数知れず。先進設備を備え、先端技術を駆使する数多くの病院。また全国各地には政府の公衆衛生施設が設けられている。ジョージア州アトランタには保健福祉省所管の感染症対策の総合的研究所で世界的に評価の高い米疾病対策センター(CDC)もある。新型コロナウイルスにも、その他の感染症にも十分対処できるから全く心配はいらない。地元の米国だけでなく筆者を含め世界中の人たちがそのように考えていたのではあるまいか。まさか米国の感染者と死者がいずれも中国の約16倍の数になるとは思いもつかなかったに違いない。

トランプ大統領は中国が発表した感染者数は疑わしいとして「中国は巨大な国で、ひどい被害に遭った。死者数が世界で最も多いのは米国ではなく、中国に違いない」と語ったという。おそらくこれがトランプ大統領の本音なのだと思う。トランプ大統領にとっては米国の感染者が中国より多いなどとは考えられないのであろう。なぜこんなことになったのか。



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