1. HOME
  2. 記事・コラム一覧
  3. コラム
  4. 第336回 アジア取材とインスタントラーメン  直井謙二

記事・コラム一覧

第336回 アジア取材とインスタントラーメン  直井謙二

第336回 アジア取材とインスタントラーメン  直井謙二

第336回 アジア取材とインスタントラーメン

アジア地域を取材中、何度もインスタントラーメンを賞味した。インスタントラーメンはアジア各国で生産されていて味がそれぞれ違うのだが、味はメーカーの違いより食べる環境に左右されるようだ。

1980年代半ば、物不足のベトナム取材中の時のことだ。取材班は撮影機材のほかにミニコンビニが開けるほどの日用品を携帯した。インスタントラーメンはもちろんのこと、簡易ガスコンロ、水、梅干し、トイレットペーパーそれに楊枝まで持参した。取材をおこなう前に生活と戦わなければならない環境だった。インスタントラーメンは貴重な主食で日に1度は食べた。

カンボジア内戦末期、ポルポト派の支配地区だったタイ国境に近いパイリンで食べたタイ製のラーメンの味は忘れられない。内戦末期にはタイ側から様々な物資が流入していてポルポト派の支配地区でもタイ製のラーメンが売られていた。猛暑の中での取材が終わり涼しくなった夕方、屋台でタイ製のビールで喉を潤しタイ製のインスタントラーメンを注文した。(写真)周りには破壊された戦車や大砲が並んでいたが、カンボジア市民もタイ製のラーメンに舌鼓を打ち、平和が近いことを感じていた。

第364回 直井.jpg

駐在していたタイではほとんどインスタントラーメンを食べなかったが、スーパーの棚には値段の高い日本製ラーメン、日本のメーカーによる現地生産品、タイのメーカーが独自に生産したラーメンが並んでいて、順番に値段は下がるが、味も落ちる。そんな普段は目も向けない一番安くて味も落ちるタイのラーメンがパイリンでは格別おいしかった。その味が忘れられずタイに戻ってわざわざスーパーでタイ製のラーメンを買ってきて食べたが、別の物ではないかと思うほどまずかった。劣悪な環境で食べるインスタントラーメン、空腹こそ最高の調味料ともいえそうだ。

反対に贅沢な食事に飽きてインスタントラーメンの味を再確認したことはすでに第246回「インドからフィリピンまで56日間の船旅」で書いた。ユネスコの企画の取材で乗船したオマーンの王様のクルージング船の中で毎日フランス人シェフの作るフルコース攻めに遭い、たまらずタイのプーケットで下船しインスタントラーメンを買い、自らお湯をかけて食べたインスタントラーメンの味も忘れられない。

定年退職後はインスタントラーメンを食べる機会も増えたが、以前より旨い。厳しい環境ではないからインスタントラーメンの生産技術が向上しているのだろう。

写真1:屋台の前に戦車の残骸が残るパイリン

《アジアの今昔・未来 直井謙二》前回
《アジアの今昔・未来 直井謙二》次回
《アジアの今昔・未来 直井謙二》の記事一覧

 

タグ

全部見る