1. HOME
  2. 記事・コラム一覧
  3. コラム
  4. 第60回 微笑を消したタクシン元首相 直井謙二

記事・コラム一覧

第60回 微笑を消したタクシン元首相 直井謙二

第60回 微笑を消したタクシン元首相 直井謙二

第60回 微笑を消したタクシン元首相

「微笑みの国」タイでは数カ月にわたって首都バンコクの目抜き通りを赤シャツ隊が占拠し、騒乱状態が続いている。日本人カメラマンを含め多くの犠牲者を出し、タイの人々の表情から微笑が消えた。大きな騒動が起きるたびに国民にメッセージを送り、事態を収拾してきた高齢のプミポン国王も今回は沈黙を保ったままだ。

今回の騒乱は、2月にタクシン元首相が首相時代に地位を利用して不正な蓄財をしたとして財産の6割を没収するという判決が出たことが発端になっている。
筆者は2001年、タクシン氏が首相になる直前にインタビューした。(写真)タイの華僑・華人を絵に描いたような風貌だった。

第72回 直井.jpg

その後、わずかな年月の間に30バーツ医療や地方優遇策で選挙地盤を固める一方、金権政治で獲得した巨額な資金でイギリスのサッカーチームを買うまでになるとは、インタビューの時点では全く予想できなかった。
 
タクシン元首相と田中角栄元首相と似ている点が多い。タクシン氏はタイ北部チェンマイの出身、田中角角栄氏は新潟県出身で、ともに最初から政界に縁があったわけではない。

タクシン元首相は通信事業で、田中元首相は土建業で成功し、豊富な資金を得た後に政界に乗り出した。政治家になった後は、2人とも地元に利益を還元することで選挙地盤を確立した。政界では金権政治を展開、党勢を拡大して首相に上り詰めた。

田中元首相はロッキード事件にかかわり裁判で、タクシン元首相は脱税などのスキャンダルを理由にクーデターでそれぞれ失脚したが、その後も金権政治による「影の実力者」として影響力を残した。

注目されるのは、タイが名目上は立憲君主制でありながら、王室がある程度の政治力を発揮する点である。プミポン国王は、古き良き豊饒の国でタイ国民が静かな暮らしを続け、仏教や伝統を守ることを望んでいる。グローバル主義、拝金主義、さらには貧しい人々の歓心を金で買うタクシン氏にあまり良い感情を持っていない。

かつて国王は「タイは4番目のドラゴンになる必要はない」と語ったことがある。「3つのドラゴン」とは香港、台湾、それにシンガポールだ。

いずれも華僑・華人がグローバルな事業を展開し、経済的に目覚ましい発展を遂げた国・地域だ。こうした国・地域の後を追う必要はないという表現で、タクシン元首相を暗に批判した。

4
月、騒乱のさなかに「タクシン氏を大統領に」との張り紙がバンコクの目抜き通りに出現した。誰が張り出したかは分かっていないが、タイではこれまで1度も触れられたことのない「王室にかかわるタブー」だ。

タイで起きたこれまでの騒乱とは異なる事態の根深さ、深刻さがうかがえる。


写真:タクシンと筆者

《アジアの今昔・未来 直井謙二》前回
《アジアの今昔・未来 直井謙二》次回
《アジアの今昔・未来 直井謙二》の記事一覧

 

タグ

全部見る