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工場には供給制限、住居地も計画停電、中国の電力不足は続くのか-豪州炭輸入がカギ(中) 日暮高則

工場には供給制限、住居地も計画停電、中国の電力不足は続くのか-豪州炭輸入がカギ(中) 日暮高則

工場には供給制限、住居地も計画停電、中国の電力不足は続くのか-豪州炭輸入がカギ(中)



<なぜ電力不足が起きたのか>

なぜ電力不足が起きるのか。華経産業研究院が発表した2021年上半期、中国の発電量構成比を見ると、火力が2兆8262億キロワット時で73・0%を占める。これに対し、水力は4827億キロワット時で⒓・5%、風力は2819億キロワット時で7・3%、原子力が1951億キロワット時で5・0%、太陽光は858億キロワット時で2・2%と少ない。中国は近年、原子力発電所の建設を精力的に進めているように見えるが、実は依然多くを火力に頼っている。自然エネルギーに至っては風力、太陽光などを合計しても10%程度に過ぎない。水力の供給量も不安定で、今年東北地方の河川の水量が少なく、期待する発電量を確保できなかったと言われる。以上見てくると、中国の電力問題とはすなわち火力発電の問題。であれば、火力の主たる燃料となる石炭の動きが気になるところだが、その石炭は、近年入手が難しくなっている。

もともと、石炭は山西省、内モンゴル自治区などの埋蔵量が多く、国内産で賄っていた。ただ、90年代から炭坑事故が多発し、多くの死傷者を出した。さらに硫黄分が多く低品質である上に、労働賃金も上がり、コスト的に見合わなくなった。このため、中国当局は、豪州の石炭に目を向けた。豪州では多くが露天掘りであるため坑内事故はなく、安価に採掘できる。海上運送費を考慮しても豪州炭の方が合理的だ。豪州側も、安定的な売り先として中国への輸出を歓迎した。ところが、モリソン首相が昨年5月、「コロナウイルスの発生源について独立した調査が必要だ」と述べ、国内でのウイルス発生を否定し続ける中国当局を怒らせた。「対中貿易に頼っている国が偉そうなことを言うな」とばかりに石炭の輸入を停止した。さらに大麦、ワインに高関税を掛け、綿花、ロブスターなどを通関規制するという嫌がらせに出た。中国は経済に政治問題を絡ませ、貿易面で報復的に圧力をかけたのである。

だが、こういう圧力の効果は薄い。モリソン首相は「政治と貿易上の関係を一緒にすることを懸念する」と中国の姿勢を非難し、「(圧力を受けても)豪州は主権を決して売り渡さない」と却って反発した。外交、安全保障の上でも、日米豪印の4カ国戦略対話や米英豪の「AUKUS」連合に加わり、中国包囲網の構築にのめり込んでいった。中国へのサプライチェーンが駄目なら他に貿易パートナーを探るとばかりに、最近は台湾との接近も図っている。中国にとって豪州の強硬な反発は予想外であり、本音で言えば、良質で安価な石炭が安定的に入らなくなったので、逆に困ったのではなかろうか。中国国内の石炭在庫量が不足し、石炭の価格が高騰した。火力発電燃料の7割を占めるスチームコール(動力煤)の価格が9月から10月にかけて5割アップし、歴史上の最高値を記録。このため、各地の発電工場は損失覚悟の操業になってしまった。

政府は、再び国内産を見直し、山西省、内モンゴル自治区などの炭鉱に頼る構えを見せ始めた。米系華文ニュースによれば、内モンゴルでは、国家能源局が烏海市、オルドス市、錫林郭勒盟などの地方政府担当部門に対し、72カ所の炭坑を再開するようよう指示、即日生産が開始されたという。だが、一度閉めた炭坑を再稼働させるのはそれほど簡単でない。仕事の効率は上がっていないという。国内炭の3割を生産している山西省では今年折悪く洪水に見舞われ、省都太原市など中、南部の炭坑が水没、米ブルームバーグによれば、同省の炭坑682カ所のうち60カ所が閉鎖されたという。

実は、硫黄分の多い低品質の国内炭は温室効果ガスの排出規制の上でも逆効果になる。習近平主席は昨年9月の国連総会の演説で、「2060年までにCO2を実質ゼロにする」というゼロエミッション実現をぶち上げた。この宣言は、中国が南シナ海進出など昨今の覇権主義的な行動で各国から反発を買っていることから、この状況を幾分でも和らげようと国際協調主義の姿勢を示したものだ。対欧米協調の接点になり得る目標値であり、中国も遵守せざるを得ない。であれば、ゼロエミッションに逆行するようなエネルギー産業形態の“先祖返り”、国内炭使用などは避けたいところだ。だが、豪州に対し振り上げたこぶしを理由もなく下ろすわけにもいかず、豪州炭の輸入の目途は立たないままだ。

中国の火力発電企業の中には、パキスタンなど第3国を経由して豪州炭を輸入する迂回ルートを確保している様子も見られる。当局もそれを承知していながら、背に腹は代えられないとばかり黙認しているもようだ。さらに海外炭については、豪州以外、例えばインドネシア、ロシア、モンゴルなどからの輸入も検討されている。6月8日の中国の報道によると、浙江省、江蘇省、福建省では、豪州産以外の石炭輸入規制が全面的に撤廃されたという。ただ、豪州以外の石炭は品質面、価格面、安定的な輸送ルートの面で不安なところがある。石炭から別の化石燃料に替えるという手もありそうだが、欧州では今、火力の燃料を石炭、石油火力から比較的温室効果ガスの排出が少ない天然ガスに切り替えており、天然ガス価格も高騰し、入手困難になっているという。

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