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工場には供給制限、住居地も計画停電、中国の電力不足は続くのか-豪州炭輸入がカギ(上) 日暮高則

工場には供給制限、住居地も計画停電、中国の電力不足は続くのか-豪州炭輸入がカギ(上) 日暮高則

工場には供給制限、住居地も計画停電、中国の電力不足は続くのか-豪州炭輸入がカギ(上)


中国では今、全国的に電力不足に悩まされている。当初、広東省で始まった不足現象はその後、北方にも波及し、全国的な規模に拡大した。工場群がある浙江省、江蘇省、東北三省では供給量が限られ、時間設定で操業停止に追い込まれているほか、北京、上海の大都市居住地でも計画停電が求められている。コロナ禍からいち早く脱出して輸出向け製品の製造工場がフル稼働し、電力需要が急増した。さらに、中国の電力源を見ると、7割程度は火力発電。その主たる燃料の石炭は近年オーストラリア産に頼ってきたが、新型コロナウイルス発生源に絡む政治的な問題から中国側が懲罰的に輸入規制に動き、入らなくなった。国内の石炭主産地である山西省では水害があり、回復は難しい。加えて、習近平国家主席は、二酸化炭素(CO2)削減のゼロエミッションを打ち出しており、火力発電を取り巻く環境は厳しい。多くの企業が大陸に工場を持つ台湾の経済研究院は「電力の使用制限は今後恒常的な問題になりうる」と予測する。中国の製造業は労働賃金アップだけでなく、電力というインフラストラクチャー確保の面からも懸念されている。

<電力需要と抑制の現状>

東京電力のTEPCO‐REPORTによると、中国では「世界の工場」として経済成長を始めた1990年代から急激に電力需要が増えた。1990年の電力消費量は6040億キロワット時であったが、2000年にはその2倍以上の1兆2898億キロワット時に伸びた。そしてこの時期から電力不足が生じていたという。21世紀に入り、工業化が一段と進み、さらには北京オリンピック、上海万博も開催され、この20年間、電力消費量もうなぎ上り、2019年に7兆2300億キロワット時、20年には7兆5110億キロワット時に達した。こうした需要にキャッチアップするため、供給量も増えてきた。中国の華経産業研究院によれば、今年上半期での全国発電量累計値は3兆8717億キロワット時で、前年同期に比べ5072億キロワット時、13・7%増と大きな伸びを示した。

 人民の生活向上に伴いエアコンなど“ぜいたく”家電製品を使うことが多くなったほか、昨年来、中国はコロナ禍からいち早く脱出し、工場がフル操業となったため、電力需要が増した。国家能源(エネルギー)局によれば、今年1月-8月の電力消費量は昨年同期の15%増だという。このため、国家発展改革委員会は今年8月21日、エネルギー消費の総量と強度を共に削減するという「能耗双控」の方針を打ち出した。エネルギー強度とは耳慣れない言葉だが、エネルギー消費量を国民総生産(GDP)で割った値で、省エネの度合いを図る指標として使われる。発改委の号令で、電力抑制の動きは、南方の広東省の工場から次第に北方に広がり、重工業から次第に軽工業にまで及んだ。その結果、工場は「開三停四」とか「開二停五」と言ったように週のほとんどで操業停止に追い込まれた。特に、印刷、セメント、石油化学、冶金、鉄鋼など電力消費の多い産業が大きな影響を受けているという。

 操業停止は主に、CO2の排出規制がかけられた国有企業を対象にしており、当面、中小企業や外資企業は対象になっていない。ただ、今後は、地方ごとに設定されたCO2削減目標値が守られない場合は、中小企業でも夜間、休日の操業を止められたり、外資企業でも稼働停止に追い込まれたりする恐れも出てきた。ある情報では、IT企業「アップル」や電気自動車メーカー「テスラ」などのサプライヤーである台湾の金属加工企業「乙盛精密工業公司(ESON)」は9月26日に、中国企業に同調して江蘇省昆山、無錫の工場の操業を一時ストップしている。広東省の日系企業も、中国側に配慮して横並びで工場稼働日を減らすなどの措置を取っているという。外資企業にもすでに影響は少なからず出ている。

 電力供給制限で、全国的に住宅地まで計画停電が行われている。遼寧省瀋陽市では交通信号が止まり、道路で渋滞が発生したとの情報もある。9月28日-10月8日、北京市と上海市の一部地域でも計画停電があり、昼間の数時間電気が来ない状態があったという。この時期はちょうど国慶節休みの最中に当たり、旅行に出る人が多く、比較的影響は少ない時期と見て当局は停電を実施したのであろうが、今年はコロナ禍によって外出を控える人も多く、面食らったに相違ない。特に北京、上海の大都市の住人、高額で住宅を購入し、気位の高い富裕層住民らには、予想もしなかった街中の停電に相当なショックを受けたことであろう。

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