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第507回 小惑星探査機「はやぶさ2」の偉業と舞台裏(上) 伊藤努

第507回 小惑星探査機「はやぶさ2」の偉業と舞台裏(上) 伊藤努

第507回 小惑星探査機「はやぶさ2」の偉業と舞台裏(上)

日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA=ジャクサ)の小惑星探査機「はやぶさ2」は2014年に地球を出発し、太陽系の惑星である地球と火星の間に浮かぶ小惑星「りゅうぐう」に2018年6月に到着し、それから約1年半の滞在中に「りゅうぐう」の表面の観測や探査ロボットの放出などによって、砂や石など岩の破片を入手。「はやぶさ2」は「りゅうぐう」への2回の着陸で採取した岩の破片入りのカプセルを抱え、2019年11月13日に地球帰還の向け、「りゅうぐう」を出発した。

今度は約8億キロを飛行し、順調にいけば、およそ1年をかけて2020年末に地球に戻る。地球もその一員である太陽系の成り立ちや生命の起源のヒントを秘めた小惑星の岩石試料を地球に届けるのが、「はやぶさ2」に残された任務だ。落下目標は南半球のオーストラリア南部の砂漠で、宇宙空間で行われる岩の破片入りカプセルの放出作業も極めて精密な制御が求められ、帰還という最後のミッションも、JAXA関係者にとっては気の抜けない難しい挑戦となるだろう。

新聞やテレビなどですでに報道されている小惑星探査機「はやぶさ2」の偉業のあらましをまず紹介させていただいたが、「はやぶさ2」が地球に向け小惑星「りゅうぐう」を出発した直後の旧年11月半ばに、今回のミッションのプロジェクトマネージャーを務める津田雄一JAXA准教授の講演を都内にある名門倶楽部で聞く機会があった。講演の演題は「はやぶさ2が拓いた科学と技術」で、総重量600キロ、高さがわずか1・5メートルという宇宙探査機としては極めて小型の「はやぶさ2」が地球から3億キロ離れた小さな天体まで飛行し、実際に着陸した上で岩の破片という岩石試料を地球に持ち帰るという「離れ業」をやって遂げた舞台裏の数々の苦労と現時点までのミッションの成功の喜びを当事者ならではの立場から教えてくれた。

「はやぶさ2」が撮影した小惑星「りゅうぐう」の表面の映像(岩石があちこちにあり、石ころだらけのでこぼことした河原と似たような環境)や、地球と長さ1キロほどの小天体の位置関係、周回軌道などを示したグラフィックを使いながら1時間にわたった津田氏の講演が終わると、宇宙や天体などについての専門的知識を持っていないであろう会場の参加者からは、盛大な拍手が起きた。詳しいことは分からなくても、「はやぶさ2」の偉業、それを成し遂げた日本の宇宙開発計画の水準の高さに感銘を受けた拍手であるように筆者には感じたが、司会者が会場に講演内容に関する質問を促すと、しばらくの間、手を挙げる人がいなかったところを見ると、「難しすぎて何を聞けばいいのか」というためらい、逡巡があったのは間違いない。

筆者も宇宙探査などに関する専門知識を持っていないので、全くの素人あるいは門外漢だが、津田氏の興味深い「はやぶさ2」ミッションの話を聞いていて、興味を持ったのは以下のような2点だ。
 ▽地球から3億キロ(光の速度で14分かかる距離)も離れた岩だらけの小惑星「りゅうぐう」に無事に着陸するためには、着地点選定に半径3メートル以内(当初の計画ではもっと広い平坦地を探す手はずだった)の精度が求められたこと、▽「はやぶさ2」の最大の任務が「りゅうぐう」の岩石試料の持ち帰りという長距離の往復飛行となるほか、岩の破片を入手するための探査、2回にわたる着陸、岩石破片採取のための人工クレーターづくり(金属弾を撃ち込み、幅15メートル、深さ3メートルの大きな穴をつくる世界初の実験に成功)といった任務のために動力源(装置)はどのようになっていたか―という点だった。

このうち、後者の疑問点については講演の司会者もお持ちだったようで、会場を見回し、挙手する人がいないのを確かめると、津田氏に直接質問をぶつけ、電源としての効率性が高いイオン・エンジンを搭載したため、動力装置の重量は60キロと「はやぶさ2」の重さの1割に収めることができ、小探査機の小回りの良さ、任務対応の柔軟性につながったと指摘していた。

さて、「はやぶさ2」の偉業については、世界初の実験の成功を含め、幾つもの任務遂行を語ることができるだろうが、一つ挙げるとすれば、地球から3億キロ離れた小惑星の表面に数メートル以内という精度の高さで目標地点に着陸させることを実証したことのすごさという点に尽きるのではないか。最終的に「精度数メートル以内」の地点に着陸させるためには、神奈川県相模原市にあるJAXAの管制センターとの間で、通信を使った指令伝達に時間的遅れ(光速距離で14分)が出るといった困難も克服しながら、何度もプログラムの書き換えが行われ、管制センターの命令に基づき、「はやぶさ2」は見事に数々の任務を遂行したわけである。

気が遠くなるような任務だが、筆者にとっては「はやぶさ2が拓いた科学と技術」の到達点の高さ、高みがおぼろげに見えてきた。次回も、津田氏の講演で聞いた面白い舞台裏の話を続けたい。

 

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