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第499回 「一帯一路」の物流拠点・重慶の自由貿易港 伊藤努

第499回 「一帯一路」の物流拠点・重慶の自由貿易港 伊藤努

第499回 「一帯一路」の物流拠点・重慶の自由貿易港

8月下旬に2日間滞在した中国内陸部の大都市・重慶では、中洲にある市中心部のホテルからマイクロバスで1時間ほどにある大河・長江の中流域河岸に国家プロジェクトとして建設中の自由貿易港「果園港」を視察した。重慶の近郊に当たる途中の高速道路には長いトンネルが多く、古来、「山城」とも呼ばれてきた重慶が山岳地帯に囲まれていることが分かった。完工からそれほどたっていない高速道路を下り、長江沿いの広大な敷地にほぼ出来上がった果園港の港湾施設に到着すると、筆者ら視察グループ一行の到着を待っていた現地責任者から、来年に完成するという大規模河川港の概要や今後の物流事業の見通しなどを聞くことができた。

空路を使って重慶入りしてから、世界でも名高い長江の流れを初めて間近に見たが、国土が大きな中国でも最大の河川(チベット高原のタンラ山脈に源流を発し、東シナ海に注ぐ全長は6300キロ)ということもあって、土色をした滔々たる流れから大河であることを実感する。

重慶を流れる長江は、中流域にありながら川幅が広く、水深もあるため、大きな貨物船が利用する自由貿易港の建設地に選ばれたのだ。長江は中国の歴史上も長く、内陸水運の大動脈として重要な役割を果たしてきたが、約5年の歳月をかけて建設を進めている自由貿易港の果園港は、習近平指導部が国策として展開する広域経済圏「一帯一路」の中国内陸の起点としての役割を担う物流の一大拠点となる。

果園港という名前の由来は、もともとは長江沿いの河岸台地にあった果樹園を整地して造られたためで、4平方キロ超の広大な敷地にコンテナ港や荷揚げ施設、倉庫群、貨車が乗り入れる鉄道の線路・積み替え基地が配置されている。港の対岸には、船舶の修理・改修を行うための造船所がある。この大きな河川港の近くには、重慶中心部や隣接する四川省、湖北省、貴州省などの主要都市を結ぶ片側3車線の高速道路の大きな橋が架かり、川の港と貨物用鉄道、高速道路を効率的に結ばせる物流の一大拠点づくりが進んでいることが果園港を眼下に望む展望施設から見て取れた。

説明に当たった現地責任者によると、大型貨物船が接岸できるコンテナ港などの港湾施設のほぼ9割が出来上がり、来年には予定通り、施設が全面稼働に入る手はずになっているとのことだった。筆者ら訪中団一行が果園港を視察した際は、コンテナ港に接岸している貨物船はなく、大型クレーンを使った荷揚げ作業なども行われておらず、港湾施設の上部にある鉄道操車場に長い編成の貨車が何度か乗り入れする光景を見ることができた。また、施設内にある新車の仮置き場には、ナンバープレートの付いていない多数の乗用車が販売市場への出荷を待っている状態で、鳴り物入りで建設された果園港が荷揚げでにぎわうには、港湾施設を利用する企業などにとって使い勝手のいい自由貿易港のPRなども必要になってくるように思われた。

中国西部における「一帯一路」の物流拠点の起点となる重慶からは、北西方向に延びる中央アジアの隣国カザフスタン経由の欧州・中近東向けルート、東部方向の上海経由での太平洋向けルート、南部方向の広西チワン自治区経由でシンガポールなど東南アジアに抜けるルートが主要な輸送3ルートとしてインフラ整備が進んでいる。これらの主要3ルートは、運ぶ貨物の種類や発注する内外企業のニーズに応じて、鉄道、陸路のトラック、内陸水運の利用を使い分けることになるが、中国沿岸部の大経済圏の中心都市・上海まで長江を通る内陸水運を使うと、1~2週間程度の日数がかかる。輸送のスピードが問題とならない原材料や資材の運搬であれば、コストが陸路に比べて割安になるため、内陸水運の利用に対するニーズは依然として高いようだ。

歴史的によく知られる東西交易路のシルクロード(絹の道)の現代版である「一帯一路」は、中央アジア経由の陸路と南回りの海路を使った広域経済圏構想だが、今回視察した重慶の自由貿易港「果園港」がどのような発展を遂げるか、遠くから見守っていきたい。

 

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