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第16回 統一鉄道 竹森紘臣

第16回 統一鉄道 竹森紘臣

第16回 統一鉄道

ベトナム国土の南北の長さは約1650kmで、そのかたちは日本列島から九州以南を外した部分に似た長細いかたちをしている。東側が海に面していて、ラオスやカンボジアと国境を接する西側にはアンナム山脈が連なっている。ベトナムは、かつてベトナム戦争時代、遡ってはチャンパ王国が存在した時代も含め、長期間にわたって南北が別々の国であった。

1802年の阮朝成立以降、フランス統治時代にはサイゴンを含めた南部のコーチシナを直轄植民地、中部のアンナムとハノイを含めた北部のトンキンを保護領とした。地域によって統治のやり方に差があったものの、現在のベトナムのかたちになったのがこの時代である。海岸線に沿ってハノイからホーチミン市までの1726kmを168駅と線路がつないでいる。この路線は統一鉄道とよばれている。1936年にフランスによって開発され開通した路線だが、その後戦時中は南北に分断されていた。現在の「統一鉄道」という呼称はベトナム戦争を終えて、ベトナムが独立をしたあとにつけられた名前だ。永久に南北がひとつに統一された国になるというベトナム人の思いは今も強い。

ハノイ駅を出発して終点のサイゴン駅まで36時間ほどで運行しており、国内外の旅行者に利用されている。明るいうちにハノイを出発する列車に乗ったときには車窓の風景に驚かされる。線路の間際まで住宅や店が迫っているし、列車が通っていないときにはカフェのテーブルや椅子が線路の上に出されていることがある。(写真1)ベトナムの列車は今のところ長距離列車だけで、それほど頻繁には列車が通過しないので住民が勝手に使用しているのだ。かつては住民だけの場所であったが、現在は撮影スポットとしてハノイ市民や旅行者がおおく訪れるようになった。それにあわせてお店も増えてしまったため、最近は警察の取締りがきびしくなっている。危険でよいことではないが、長く続いた住民の生活スタイルでもあるので、安全な範囲で残ってほしいと思う。

ハノイとホーチミンのちょうど中間あたり、フエとダナンの間にあるハイヴァン峠から見える海の景色は美しい。(写真2)ハイヴァンはベトナム国土の西側を走るアンナム山脈が海側に膨らんでできた峠で海に突き出ている。そのため列車はくねくねと蛇行しながら海に向かったり、山の中を抜けたりして走りながら進む。一部では海の上を走っているような断崖絶壁を走るところもあり、スリルも楽しめる。ハイヴァンは漢字で「海雲」とあらわされ、霧もおおく雲の上を走るような体験もできるかもしれない。以前は南北を貫く国道一号線もこの峠を越えていたが、現在ではハイヴァン・トンネルというトンネルができたため、峠越えをできるのは統一鉄道だけとなっている。
 
現在ベトナムでは2050年に向けて段階的に統一鉄道を近代化する計画が策定されている。2020年までに現在時速60kmほどで走っている古い車両から時速90kmほどで走る車両に交換し、 2020年以降にフランス時代から続く幅の狭い線路から、現在主流の幅の広い線路を敷設し、2030年以降には時速350kmで走行できる車両を導入する計画だ。残念ながら予算の関係で進捗は芳しくないようだが、完成したらぜひハノイとホーチミンの間を旅してみたい。


写真1枚目:ハノイの線路内(ハノイ、ベトナム)
写真2枚目:ハイヴァン峠、車窓から(ダナン、ベトナム)
map:ベトナムの鉄道、統一鉄道

 

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