1. HOME
  2. 記事・コラム一覧
  3. コラム
  4. 第10回 「アジア最大」の起点駅:北京南駅 東福大輔

記事・コラム一覧

第10回 「アジア最大」の起点駅:北京南駅 東福大輔

第10回 「アジア最大」の起点駅:北京南駅 東福大輔

第10回 「アジア最大」の起点駅:北京南駅

中国のターミナル駅のしくみは、日本や欧米のそれとは異なる。乗客たちは、手荷物検査を受けてから、2階レベルにある待合ホールへと一気に上がって列車の出発を待つ。このホールには地上1階に並べられたプラットホームごとに改札があるが、これらの改札が開くのは列車が出発する15分ほど前だ。乗客たちはここで、買い物をしたり、トイレに行ったり、所狭しと置かれた椅子に座ったりなどしながら改札が開くのを待ち、開いたら一気に列車へと乗り込むのである。逆に、駅に到着した乗客は、直接地下階に吐き出される。全体としては、出発ロビーと到着ロビーが分けられた空港のような構造となっているのである。

このような構造だと、人々のホームでの滞在時間が短くなるので、プラットホーム周辺のデザインは若干おざなりになる。注力してデザインされるのは、何といっても上部の待合ホールであり、そこを覆う大屋根だ。どのターミナル駅も、地域の伝統的な装飾モチーフを使ったり、そこへトップライトから自然光を採り入れたりなどしている。中国の公共施設に共通していえることだが、どこも地元のアイデンティティーを表現するのに必死なのだ。

この「アジア最大」(中国の施設にはこのようなタイトルが多いので、若干食傷気味である)の北京南駅を設計したのは、イギリスの建築家、テリー・ファレル率いるイギリスのTFPファレルズという設計事務所だ。ファレルは、映画「007」シリーズにしばしば登場する「MI6本部ビル」の設計で有名であり、どちらかというとゴテゴテとしたポスト・モダニズム的な造形を行ってきた建築家であるが、この建物では装飾的な要素は抑制されている。

全体を楕円形の平面とし、その中にさらに楕円形の巨大な待合ホールを内接させる。待合ホール以外の部分では、波型に吊り下げられた屋根がプラットホームを覆っている。また、2つの楕円形の間には車路があり、2階レベルに直接タクシーが乗り付けられるようになっている。スペースを効率的に使うことを美徳とする日本人設計者の目から見ると、巨大すぎ、無駄なスペースが多すぎるきらいがあるが、これは設計上の要求であろうから設計者は決定できない。定められた条件の中で出された最大限に洗練された回答であるように思う。

そう、この建物は巨大すぎるのだ。地下2階レベルにある地下鉄を降り、待合ホールに到達するまでに、マクドナルドとKFCがそれぞれ3つか4つはある。その他、レストランや土産物店が所狭しと立ち並び、まるで商業施設の中を歩いているかのようだ。

この駅が、このような仰々しい施設になっているのは、北京ー天津ー南京ー上海を結ぶ「京滬(けいこ)高速鉄道」の始発駅になっているからだ。高速鉄道だと、北京ー上海間はおよそ5時間。飛行機だと2時間ちょっとで、料金にはあまり差はないが、空港まで行って待つ手間と、飛行機が遅延しがちなことを考えると、じゅうぶん競合しうる関係である。特に近年は空軍が予告なしに演習を始めることが多く、その間は民生用の飛行機は飛ぶことができないので大きく遅れる。空軍の演習で飛行機が遅れるたび、「これは、人民に高速鉄道を使わせようとの国家の意思かもしれない」と勘ぐってしまうのである。


写真1枚目:巨大な待合ホール。周りに沢山の商店がとりつく。
写真2枚目:プラットホーム。ここで過ごす時間は短い。プラットホーム。
map:北京南駅


 

《華北の「外国」建築をあるく 東福大輔》前回  
《華北の「外国」建築をあるく 東福大輔》次回
《華北の「外国」建築をあるく 東福大輔》の記事一覧

 

タグ

全部見る