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第31回 全羅道を代表する紅葉のメッカ 内蔵山 森正哲央

第31回 全羅道を代表する紅葉のメッカ 内蔵山 森正哲央

第31回 全羅道を代表する紅葉のメッカ 内蔵山

湖南(全羅道)を南北に分ける分水嶺の内蔵山は、古くから「湖南の金剛」と呼ばれた。秋の最盛期には一日10万人が訪れるという紅葉のメッカで、韓国八景や湖南5大名山の一つにも名が挙がる。標高は高くないが、それぞれ特徴ある「内蔵9峰」が馬蹄型につらなり、その懐に抱かれた内蔵寺が、味わい深い風情をかもしている。「9峰」を北から反時計周りに挙げると西来峰(624m)、仏出峰(610m)、望海峰(679m)、蓮池峰(670m)、鵲峰(714m)、神仙峰(763m)、文筆峰(675m)、燕子峰(675m)、将軍峰(696m)で、主峰は南側の神仙峰。かつては霊隠山と呼ばれたが、山中に貴重なものが無尽蔵に隠されているという意味で、内蔵山と呼ばれるようになった。

1969年に国民観光地に、71年には内蔵山地区のほか、西の笠岩山(626m)と南の白岩山(741m)一帯を合わせて国立公園に指定された。白岩山のふもとには、1632年創建の白羊寺があり、白羊渓谷とあわせ多くの行楽客が訪れる。今回は華やかな秋とはまた違った魅力を放つ、冬の内蔵山を紹介したい。

内蔵山への最寄駅は、全州と光州の中間に位置する湖南線・井邑駅。駅前広場にでると、1894年に起きた東学農民運動(甲午農民戦争)に参加した農民軍の銅像が立っている。東学軍が政府軍を相手に初めて勝利を収めた井邑は、東学と関係が深い土地だ。駅前からのびる大通りを100m行くと右手にバスターミナルがあり、そばの停留場から内蔵山行きバスが出ている。

井邑市街から内蔵山路(49号線)を南東へ走り、内蔵山貯水池を通過、雪で白い谷間へ入っていくと、モーテルや食堂が建ち並ぶ一角につく。ここから内蔵寺の入口まで約3キロ、内蔵川に沿って45分ほど車道と散策路を歩かなければならない。

一帯はモミジが真っ赤に色づく秋の週末は人波で埋まり、園内バス「楓風列車」が行き来するとのこと。だが、さすがに冬の平日、まるで眠ったような静けさに包まれていた。探訪支援センターで職員から話を聞く。人気のコースは、主峰の神仙峰がそびえる南側ではなく、西来峰や望海峰がある北側の稜線とのこと。そこで内蔵寺の一柱門を経て西来峰に登り、鵲峰まで縦走、金仙渓谷を内臓寺に下ることに決めた。

羽化亭が浮ぶ凍結した小池を過ぎると、ロープウェイ乗場と探訪案内所が見えてくる。ロープウェーで燕子峰の中腹、海抜300m地点まで上がることができるが、乗客がいないためか、一度も動いているところを見なかった。探訪案内所の周囲にも駐車場があり、シーズン以外はマイカーも停められる。

一柱門の前で右折して細い坂道を800m上ると碧蓮寺につく。「碧蓮禅院」と額のかかった門を抜け境内に入ると、大雄殿の後ろに西来峰の岩峰が屏風のようにそびえている。幻海禅師が660年に創建した白蓮庵があり、内蔵寺と呼ばれたことことから、今でも、麓の内蔵寺と区別して古内蔵と呼ばれている。

碧蓮寺の塀に沿って山道へと入っていく。小楢やチョウセントリネコの樹林を縫ってジグザグに登っていくと大きな岩がある。これが石蘭亭址。ここにはかつてノイバラ(石蘭)が自生、石蘭亭という名の東屋があり、明成皇后(1851~1895)を追慕する祭祀が執り行われたとのこと。

尾根に出てると雪が深くなったので軽アイゼンを装着、ひと登りで西来峰(ソレボン)の山頂についた。西来峰の名の由来は、達磨が西(インド)から中国に来たことを意味するとも、姿が馬鍬(ソレ)に似ているためともいう。山頂からは弧を描く内蔵山の主稜線がぐるっと一望でき、眼下に雪が積もった碧蓮寺と内蔵寺の屋根がひときわ白い。

西来峰から仏出峰、望海峰、蓮池峰を通って鵲峰まで縦走する。4.1キロ、2時間20分の道のり。西来峰から仏出峰まではアップダウンがきつく、鉄製の急階段で北側の斜面をかなり下ってから、また上り返す。望海峰を過ぎると、しだいになだらかな樹林の尾根道となり、歩きやすい。山頂付近にはクロフネツツジが群落をなしてる。

望海峰のピーク下で3人グループとすれ違った際に、「一人できたんですか、山がほんとうに好きなんですね」と声をかけられる。韓国人にとって山は、みんなで和気あいあいと登るものなのかも知れない。他には誰とも会わず、静かだった。

蓮花峰からアベマキなど雑木林の広い尾根を通って内蔵山の第2峰の鵲峰へ。鵲峰からは、スンチャンセ峠を越えて南の白岩山へ稜線がのびている。時間に余裕があればさらに神仙峰まで行きたいところだが、日没も近いので鵲峰から金仙渓谷へと下る。

雪がほどよく固まり、軽アイゼンがサクサクとよく効いて歩きやすい。40分の急下降で金仙渓谷にぶつかる。神仙峰と鵲峰を水源とした金仙渓谷は内蔵山の秘境で、文禄・慶長の役に際して『朝鮮王朝実録』を隠した龍窟、つるつると滑りそうなキルム岩、高さ18mの金仙瀑布などの名勝が点在する。

金仙渓谷に出てから内蔵寺までは1.1キロ余りの平坦な道で、一帯には天然記念物にも指定されたユズリハが自生している。ユズリハは、韓国ではクルコリナム、あるいは「榧子林」の漢字を韓国語読みしてピジャリムと呼ぶ。

百済時代の636年に霊隠祖師が創建した内蔵寺は、朝鮮戦争で焼失し、1970年代に再建された。霊隠山にちなんで、もとは霊隱寺と呼ばれた。境内からは西来峰の尖った岩峰がよく見える。内蔵寺から一柱門に至る参道も、秋には紅葉が美しく、真っ赤なトンネルに変わる。一柱門をくぐり、再びバス停に着くころにはすっかり日が暮れ、モーテルのネオンがひときわ明るく感じられた。


●アクセス(バス)
・井邑~内蔵山 171番バス。1日31本。6時20分~21時。25分所要。井邑駅へ戻る最終便は21時30分。
・内蔵寺~井邑~光州 一日3本。9時40分・12時・16時10分

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