第30回 風水師・道詵が暮らした吉地 白雲山 森正哲央
第30回 風水師・道詵が暮らした吉地 白雲山
白雲山と呼ばれる山は韓国各地にある。韓国山林庁が2002年に発表した「韓国百大名山」にも、京畿道抱川市と全羅南道光陽市、江原旌善郡の白雲山がそれぞれ選ばれている。そのうち知名度、標高ともに最も高いのが今回紹介する光陽の白雲山だ。
光陽の鎮山であり、昔から白雲山の「生気」のおかげで、光陽は多くの偉人を輩出するとされてきた。韓国鉄鋼最大手ポスコの工場があるコンビナートをはじめ街が急速に発展したのも、この「生気」の影響と考える人もいる。風水と結びついたこうした言い伝えの広まった背景には、朝鮮最高の風水師とされる神羅末の僧、道詵(827~898)の存在がある。白雲山一帯が「吉地」であると見抜いた道詵は、長く白鶏山ふもと玉龍寺で弟子らを指導、72歳で没した。
山容は、全体としておだやかで、最高峰の上峰(1218m)を中心に、西にはタリ峰(1127m)、兜率峰(1123m)、兄弟峰(961m)が、東にはメ峰(865m)、南には億仏峰(1000m)がつらなり、主稜線は20キロ余りと長い。北は、南海へと流れる蟾津江を間に智異山と対峙している。
ふもとの成仏渓谷、東谷渓谷、於峙渓谷、錦川渓谷を「光陽の四大渓谷」と呼ぶ。中でも白雲山への主要な登山口となっている玉龍面東谷里の東谷渓谷は、キャンプ場や民宿が多く、夏には涼を求めて多くの市民が訪れる。今回は東谷渓谷から白雲寺を経て上峰を目指してみた。
光陽邑からバスで東谷渓谷へ向かう。渓谷入口の東洞を過ぎると順に仙洞、墨方、深院、ジントゥル、論実の集落が渓谷沿いに点在しており、深院でバスを降りた。東谷渓谷を起点とした登山路の中では、ジントゥルからのコースが最短だが、今回は仙洞集落上流の龍門寺を起点とする。
まずは東谷渓谷沿いの車道(新齋路)を下って龍門寺へ向かう。新齋とは、朝鮮時代の学者で光陽出身の崔山斗(1483~1536)の号で、東洞には崔山斗が少年時代に学んだ学士台がある。
キャンプ場、休養タウン、墨方の集落を過ぎると龍門寺入口で、林道に入ると、左手に小さな龍門寺が見える。境内には入らず直進する。車一台が通れそうな舗装道が3キロ余り、カーブを描きながら白雲寺へと続く。
白雲寺は、高麗時代に道詵が創建したとされるが規模は小さい。白雲寺から先は本格的な山道。下生えのササが繁茂し、足元は浮石が多い。点滴に使うようなチューブが棄ててあるのを目にする。イタヤカエデの樹液を採取するために使ったものだ。
イタヤカエデの樹液は、「韓国では骨によく効く水」という意味のコリス(骨利水)と呼ばれ、健康飲料として珍重されている。2月中旬から4月中旬に採取され、1.8リットル入りが定価7000ウォンほど。買って飲んでみたことがあるが仄かに甘い。
白雲寺から500m登ると分かれ道で、右へ行くと白雲庵まで900mだが、そのまま直進する。龍門寺のスピーカーから流れているのか、谷間にお経がこだまし、修行僧になった気分がする。さらに20分でジントゥルからの道と合流する。
さらにひと登りで尾根にでると眺望が開け、上峰へと続く白い稜線が、流れる霧の間に垣間見えた。ツツジに囲まれたヘリポートでひと息いれる。尾根にでたら上峰まではあとわずか。20分先でジントゥルからの道と合流して300m進み見えてくる突き出た岩が上峰の頂だ。
先ほどまで稜線を覆っていた霧もとれ、南東には上峰から続く稜線の先に、ピラミッド形の億仏峰が姿を現していた。晴れていれば、北には天皇峰から老姑壇まで、智異山の長い稜線が望める。
ミズナラを主に、サワシバ、ナツツバキなどが自生する尾根をハン峠へ向けて緩やかに下る。20分も行くと高さ約10mほどの大きな岩、神仙台の下を通る。北側に回ると階段があり上にあがれる。
神仙台から1時間余りで松林に囲まれたハン峠に到着。峠からは南北に林道が通じ、東谷渓谷の論実までは2.3キロ、北の求礼郡下泉里まで8キロ。論実を経てジントゥルへ抜け、このまま山行を終えてもよいが、余力があったのでタリ峰へ登り返すことにした。タリ峰までは1.3キロ、40分。タリ峰の頂にある展望台からは、白雪山の山並みが一望できる。
展望台から兜率峰、兄弟峰へと続く尾根道をしばらく下るとチャムセミ峠(970m)にでる。ここから稜線を離れて論実へと谷を下る。30分で舗装路にでると右手からは川のせせらぎがきこえる。
舗装路に出て30分も歩くと論実につく。夏には賑わう集落も、今はひっそりと眠ったようだ。今回歩いたのは一部だが、長くのびる稜線を本格的に縦走しても面白そうだった。
●アクセス(バス)
・釜山西部バスターミナル(沙上)~光陽 17本 6時30分~19時30分
・光陽~東谷渓谷 21ー2番バス
「2016年11月初掲」
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